RINGWORLD’S CHILDREN
ラリイ・ニーヴン
2004

2006年邦訳、早川書房からハードカヴァーで発行され、文庫化されることのなかったリングワールドシリーズ最後の作品である。手に入れ損ねたため長く読む機会を逸していた。20年ぶりに少しまとまった在宅時間がとれ、国立国会図書館や近隣の図書館を調べ物で利用することがあり、ついでに入手できなかったSF作品の収蔵について調べてみると、近くの図書館になぜか入っていたので、借りて読むことにした。学業や仕事以外で「図書館で本を借りる」のは高校生の頃以来ではなかろうか。大学でも図書館を利用したことはあるが、読書のために使ったことはなかった。社会人になっても同じである。本は買って読むものだった。図書館が嫌いなわけではない。小中学校のころは図書委員だったし。手許に本を置いておきたい、時間に縛られずに本を読みたい。積ん読したい。そういう気持ちが大きかったのだ。
所有欲と読書欲と外部記憶装置としての背表紙や表紙、本棚の羅列だったわけである。
それを推して、どうしても読んでおきたかった作品のひとつだ。
読めてよかった。もう一度、ノウンスペースシリーズとリングワールドの世界を最初から堪能したいと改めて思ったよ。
リングワールドは壮大な装置である。
まず、太陽系を思い浮かべようか。真ん中に太陽がある。太陽を中心に、太陽の重力によって惑星が太陽の周りをぐるぐる回っている。水星、金星、地球、火星、小惑星帯、木星、土星…。
木星あたりの軌道を想像する。太陽と木星だけにして、木星の公転軌道を太線で書いてみよう。その太線がリングワールドだ。太陽が天頂にあって、公転方向に身体を向けて右と左を見るとすごーく遠くに高い高い壁が存在する。公転(自転)速度のおかげで足下に遠心力による仮想の重力が感じられる。
リングワールドは、地球の表面積の300万倍の居住世界である。
永遠の生命と体力があれば、300万世界を旅することもできるかもしれない。
そして、リングワールドには、30兆を超える人類亜種がそれぞれの場所で生態的ニッチを埋めるように進化し、変容し、繁栄し、暮らしていた。
たとえば他の種族を食べる夜行性の腐肉食い、例えば吸血種、樹上生活を得意とするが知性を失った種、長身種などなど。もちろん、知性のある人類種も多くいるが、世界が広大であるがゆえに、多くがひとつの大陸レベルで言語が異なり、生活文化習慣も異なる。
リングワールドを含むノウンスペースには、プロテクターと呼ばれる高度に知性を持ち、生殖能力を失ったが、生命の最終段階ともいえる状態に変容した生命体がいる。プロテクターはそれ以前の存在のとき繁殖して残した子孫を守ることが本能となる存在である。プロテクターは、ほかのプロテクターと常に争っている。自分の子孫たちを守るという本能ゆえに、他のプロテクターの子孫が脅威に思えるのだ。ときにプロテクターは他のプロテクターの下で働くこともある。自らの子孫を庇護下に入れてもらうために。
弱肉強食の宇宙を象徴するような存在である。
そして、プロテクターの存在が、リングワールドにとってきわめて重要だ。それが前作「リングワールドの玉座」で繰り広げられる物語で解き明かされた謎のひとつだ。
しかし、大きな謎は解かれていなかった。
いったい誰が、どのようにして、なんのためにリングワールドをつくったのか。
リングワールドは誰が、どのようにして、その保全と危機回避を行ってきたのか。
そもそもリングワールドは安定して存在し続けられるのか?
ようやくすべての問いが解き明かされる。
主人公はルイス・ウー。出生年齢主観時間240歳。ずっとリングワールド上での主人公だった人物の最後の冒険がはじまる。ルイス・ウーは、ノウンスペースシリーズでもたびたび登場する長命の人間である。前作で傷ついたルイス・ウーが治療再生の機器からめざめたとき、かつて彼が壊したはずの宇宙船のハイパードライブエンジンが修復されていた。リングワールドを離れて、故郷に帰れるかもしれないという希望がわき上がる。しかし、そのエンジンを積んでいた宇宙船ホット・ニードル・オブ・インクワイアリー号が3枚に卸されていた。新たなプロテクターがエンジンを修理するとともに、宇宙船やルイスが繋がれていた医療機器を分解、探査していたらしい。分解しながらも、ルイスの治療が続いていたのでこのプロテクターは天才的技能を持っていることは間違いない。
医療機器によって若返ったルイスは、リングワールドを離れ、故郷に帰る希望と、新たなプロテクターの手の内にいるという絶望のふたつを同時に感じた。
そうして物語が再開する。
今回は、リングワールドのすべてを見せるため、星系でリングワールドへのアクセスと情報収集を求めて集まってきた地球種族やいくつかの異星人種族による「周辺戦争」を詳しく描くことで、リングワールドを系内、系外からみた世界が描かれるとともに、リングワールド上での表の世界、地表の下の世界、その間の世界、その補修恒常機構などに焦点があてられている。物語の展開も壮大だが、むしろそういう光景を読者に展開するための作品だ。
同時に、1970年の「リングワールド」からずっとずっと多くの人々を魅了してきた世界の物語、ノウンスペースシリーズとルイス・ウーの冒険の集大成とも言える物語である。
アシモフがファウンデーションシリーズとロボットシリーズの集大成を書き記し、ファンから指摘されてきたアシモフ世界への「問い」にひとつの答えを出したように、ニーヴンはリングワールドへ向けられた「問い」に答えたのである。
謎に答えが出るということは、謎を想像する読者にとっては答え合わせであると同時に、謎が謎ではなくなるさみしさも生まれる。それを是とするか、否とするかは、読者次第。
しかし、たいていの場合、最終巻は、それまで読んできた読者へのプレゼントだ。
そして、主人公への作者からのプレゼントでもある。
お疲れ様、ニーヴン、お疲れ様、ルイス・ウー。








