アナンシ号の降下
ラリー・ニーヴン&スティーヴン・バーンズ
THE DESCENT OF ANANSI
1982
1986年9月に創元推理文庫から出版されている。1986年1月28日、スペースシャトルチャレンジャーが打ち上げ直後に爆発。本書の邦訳が、この事故を受け手のものか、それ以前から準備されていたものなのかは知らないが、2016年にはじめて読んだ者としては、「もうひとつの歴史」小説のように読めて実におもしろかった。
ストーリーは、単純明快。スペースシャトル計画が順調にいった未来。1980年代の日本の世界的経済成功がバブルの破綻で終わらなかった未来。
月の軌道上には1隻の宇宙船を元に、多くの宇宙へ放出された廃棄物(燃料タンクなどなど)を集め、設備を拡張し、月軌道上研究施設としてNASAとアメリカ政府の管理下の組織として研究者らも集めてきた。月面にはマスドライバーも設置され、軌道上で可能な素材や医薬品等の開発、供給などで、その存在は社会に認められていた。
組織の名前はフォーリング・エンジェル。いま、新たに軽く、強度が高い、あらたなケーブル素材が開発された。それは、地球上の橋の建設や宇宙での構造物に大きな変革を与えるだろう。
このケーブルの売却益をあてに、フォーリング・エンジェルは、NASAとアメリカ政府から独立した宇宙上の企業として独立の道を選んだ。
入札に参加したのは、アメリカ政府の意向を気にしなかった日本の建設会社と、ブラジルの企業。しかし、日本とブラジルの企業の中に、企業を裏切り、このケーブルをめぐって陰謀を企てる者が出てきた。
陰謀は、回教徒活動家戦線連合に対して、武器を供与し、ケーブルを月軌道上から地球に届けるためのスペースシャトルを攻撃するというものだった。
実際に攻撃が行われる中、完全な破壊を逃れたスペースシャトルの乗組員たちは、無事、地球または月軌道上のフォーリング・エンジェルに帰還できるのか?
というもの。
本書が書かれた当初には、スペースシャトル計画は遅れながらも前に進んでいたし、日本の経済は膨張を続けていた時期である。
まだ、ソヴィエト連邦は解体しておらず、ブラジルの発展は緒についたばかり。
このときに読んでいれば、地球圏軌道上の宇宙開発への期待をめぐるサスペンスとして読んだことだろう。
しかし、2016年の今日、スペースシャトル計画は終わり、日本は経済的に失速し、ISといった国際テロ組織と国家の闘いが世界の政治体制を変えつつある。だから、「もうひとつの歴史」小説である。
いま、読んでも実におもしろい。
(2016.8.22)