リゲルのレンズマン

リゲルのレンズマン
LENSMAN FROM RIGEL
デイヴィッド・カイル
1982
 本書は、レンズマンシリーズの外伝としてデイヴィッド・カイルの手になる第二段階レンズマンシリーズ三部作の2作目、トレゴンシーを主人公とした作品である。前作「ドラゴンレンズマン」の後、そして、「レンズの子ら」の手前、まだ子どもたちが生まれる前の物語。リゲル星系第四惑星の第二段階レンズマン・トレゴンシーが暗殺された! いやそんなばかな。だって、「レンズの子ら」でも活躍するトレゴンシーである。もちろん、その暗殺は未遂に終わり、そして、このトレゴンシー暗殺をめぐっていくつもの物語が展開する。トレゴンシーは、銀河パトロール隊の調査、諜報、特殊部隊の創設者であると同時にリーダーだったのだ。キニスンが銀河系の光とすれば、トレゴンシーは銀河系の影となってこの宇宙の平和を守っていたのだ!じゃーん。アメリかっぽーい。
 前作「ドラゴンレンズマン」では、第二段階レンズマンのウォーゼルと並んで、不思議な能力を持つふたりのレンズマンが登場し、物語を深めたが、本作では、レンズマンどころか、銀河パトロール隊の士官でさえない、自ら「技官」を名乗るクラウドという青年が大きな役割を担う。それと同時に、ボスコーンとは違う異質な「観察者」とでも言うべき新たな存在が登場してくる。
 そして、ブラックホール兵器、ウォーゼルの幻覚操作とは比べものにならない規模の非現実的現実を生み出す力、不思議な力を持つクリスタルなど、新たな要素も登場する。
 残念ながら、本作品ではこの「観察者」的な存在の謎は回収されておらず、想像するに、おそらくこれに続く「Zレンズマン」のテーマとなっているのだろう。
 前作の「ドラゴン・レンズマン」は単独作品の要素が濃かったが、本作「リゲルのレンズマン」は明らかに三部作を意識して、その中継ぎ的要素もある。また、「渦動破壊者」のクラウドと名字が同じ存在で、立ち位置も似ている存在が登場するなど、オリジナルシリーズのリスペクト、オマージュも色濃く出ているのが特徴である。
 さて、個人的なことになるが、前作は奥付に鉛筆で金額が書かれていたので古書店で求めたのが明らかだが、本作はそういうのがみあたらない。訳出されたのが1992年で、そうなると、数年前の個人的ばたばたからちょっと落ち着いた時期であり、その時期に本書を買い求め、同時に古書店で前作を探し求めたのかも知れない。忘却の彼方の話だ。
 人の記憶はこのように曖昧に過ぎていくが、1920年代に登場したレンズマンという世界は、60年後にもこうして書かれていく。設定は古くなり、社会状況としても、作品群には今日では書くことが認められない要素もあるが、それでも、作品は残り続ける。SF史の中で欠くことのできない作品だからだ。
 それに果敢にもチャレンジしたカイルのレンズマンは、いまどのような位置づけなのだろう。ひとつ訳者後書きには書かれていたが、あるレンズマンを登場させたことで、ファンの中では正史と認めない動きもあるようである。難しいね。
 ちなみに、「Zレンズマン」は未訳のままだ。
(2019.8.13)