宇宙兵士志願

宇宙兵士志願
マルコ・クロウス
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2014
 最近、翻訳SFが売れないからなのか、そもそも本が売れていないからなのか、翻訳されるSFのなかでミリタリー系が多い気がする。いや、多い。間違いなく、多い。ミリタリー系はミリタリー系としての需要がある。それは分かる。分かるんだけど、なんだかなあ。でもって新兵物はあいかわらずの人気。「宇宙の戦士」(ハインライン)にはじまり、「エンダーのゲーム」「終わりなき戦い」「老人と宇宙」「戦士志願」などなど。あまたの作者が手を染めている。実際名作も多い。ここに上げた5作品はどれもおすすめだ。ある意味深い。
 さて、ドイツからアメリカに移住した作者。ドイツ軍歴をもつだけに、迫真の新兵訓練。舞台は22世紀2108年。世界は中国系とアメリカ系に二分され、第三次世界大戦後、世界の荒廃は進み、人の格差は大きくなり、主人公のアンドリュー・グレイスンは公共住宅エリアでかつかつの福祉的生活しか知らないままに成長してきたのだった。希望は宇宙に出ること。そして、今の絶望的ななにもない生活から抜け出すこと。その唯一の道は、軍に志願すること。軍に志願し、新兵訓練を経て軍人として雇用されれば、その生活から抜け出すことができる。
 しかも、新兵訓練の初日から、本物の食べものを腹一杯食べることができるのだ。
 最高!
 新兵訓練の小隊は男女混成。まあ、それがあたりまえの社会。
 やがて配属され、紛争の現場に入り、現実を目の当たりにし、それでも生き抜く術を身につけ、失敗し、なんとか生き延び(主人公だから)、もてる能力をフルに発揮し、望みを少しずつ(ちょっとズルしつつ)勝ち取っていく。そんなストーリー。
 ほんと、どうなるんだろうね。これから先。
 いつまでもちゃんと飯が食えるのだろうか?
 いつまでもちゃんと医療が受けられ、いまのふつうの暮らしが続けられるのだろうか?
 人口はやがて80億、90億、100億となる。
 農地は減り、気候変動がすすみ農業が厳しくなる。つまり食料、本物の食料が減る。
 水が不足する。エネルギー開発の手立てが限られている。
 21世紀初頭、結構きわどいところにいる。
 そんなとき、この「宇宙兵士志願」を読んで、笑っておくと良い。
 そして、考えるのだ。
 どうやって生き延びる?
 戦士としてではなく、人間として。
 この手の作品は、ネタバレすると面白くないから、なーんにも書かない。
「老人と宇宙」「戦士志願」を楽しく読める人にはおすすめ。
(2019.10)