レッド・ライジング 火星の簒奪者
RED RISING
ピアース・ブラウン
2014
「火星」と名前がついていると手を取ってしまう癖がある。火星は太陽系でもっとも身近でテラフォーミング可能性の高い惑星だからだ。太陽系には、地球と似た惑星が2つある。金星と火星だ。金星は太陽に近く、その熱の処理が難しい。火星は太陽から遠く、熱が足りない。しかし、薄いながらも大気があり、水があり、生存可能性が高い。もうひとつ、木星の衛星エウロパなども生存可能性はあるが、人類にとって火星こそがもうひとつの地球となりうる惑星なのである。2000年代になり、火星探査が本格化すると、その知見を生かした新たな火星像に基づくSF作品も増えてきた。ますます火星がおもしろくなる。
時ははるかなる未来。舞台は火星。階級化された世界。最上位はゴールド、最下層はレッド。実際にゴールドは金の肌を持つ支配層。レッドは火星の地下でヘリウム3を採掘する。地球由来のアナヘビの襲撃と、ガスポケットを抜いた爆発におびえながら、ドリルを使い深層を掘り進む。主人公はレッドの若者ダロウ。新婚のドリル・ドライバー。レッドに事実上定められた貧困の中で、新婚の妻イオを食べさせること、親族を食べさせること、氏族の名誉を守ることのために生きている。
やがて、ダロウは自らの不名誉とともに惑星の真実を知る。火星のテラフォームはすでに終わりレッドは支配階級のために奴隷とされていたのだ。
ダロウは革命を求める秘密結社に見いだされ、この世界を変えるため、そして復讐のために、ダロウはレッドから肉体改造によりゴールドに変わり、偽りの身分を得て、ゴールドの若者のためのエリート養成校に入校した。ここを勝ち抜き、時代の艦隊司令候補、惑星総督候補となるために。
ゴールドの中でもエリート中のエリートを自認する名家の若者たち。いくつかのチームに分けられ拠点を守り、唯一の生き残りチームとなるよう放置される。まずはチームの中でリーダーとなるために、そして、他のチームを追い落とすために、あらゆる策謀、陰謀、連携、野合、友情、愛情、暴力、脅迫、裏切り、信頼の行為が行われる。ダロウもまた、強い意志を持ってこれを切り抜け、トップエリートの道をめざすのであった。
黒いハリーポッター。
おもしろいけど、火星である必要はなかった。
続編もある。
(2020.8)