女総督コーデリア
GENTLEMAN JOLE AND THE RED QUEEN
ロイス・マクマスター・ビジョルド
2015
ヴォルコシガン・シリーズは、主人公のマイルズの父アラール・ヴォルコシガンの死によってマイルズの旅が終わり、幕を閉じた。しかし、その世界は続く。このシリーズの前日譚「名誉のかけら」でアラールと惑星ベータのコーデリア・ネイスミスが出会い、様々な事件を経て結婚する。そして、マイルズが生まれ、物語がはじまる。そして、アラールが死に、コーデリアの物語となる。コーデリアはアラールの後を継いで惑星セルギアール総督となっていた。科学技術の進んでいる長命なコーデリアと、早逝したアラールの間には、もうひとり、影のパートナーが居た。現在、セルギアールの艦隊提督としてコーデリアを宇宙から支えるオリバー・ベリン・ジョール49歳。長年アラールの下で働き、同時に恋人でもあった。そのことは、コーデリアをはじめ、ごく限られた人たちにしか知られていない。アラールとコーデリアとオリバー。3人の関係は安定したものだったが、コーデリアとオリバーが性的な関係を持つことはほとんどなかった。アラールの死はふたりの関係を変えるものになる。3年の間、コーデリアとオリバーの関係は、惑星を統治するためのオフィシャルなものだけだったが、3年が過ぎ、ふたりの間に新たな関わりの兆しが訪れる。
時代が変わってきたね。いいことだ。ビジョルドはSFやファンタジーの中で生き方の多様性、異質な者の出会いと共感、理解について書いてきたが、ここではオリバーを出すことで、性の多様性を受け入れることについて自然に書いている。2000年代に入って、性別と関係なく人称が同じである世界を書く作品とか、恋愛関係において同性、異性について特別な書き分けをしない自然な作品が増えてきた。本作もまた、アラールとオリバーの同性同士の関係、アラールとコーデリアの関係、コーデリアとオリバーの関係が物語に深みを与え、暖かくほっこりとした物語に仕立てている。上手だ。
筋立て自体はSFというより設定された世界観での大人の恋愛小説といった感じ。
いいね。
(2020.11.14)