銀河核へ
THE LONG WAY TO A SMALL, ANGRY PLANET
ベッキー・チェンバーズ
2014
最高におもしろいスペース・オペラ。こういうのが読みたかった。SFが21世紀の価値観に彩られている。様々な酸素呼吸型の異星人種と地球人が一緒に過ごす世界での日常の仕事と暮らし。クライマックスを除き、なにか極めつけに特異なことが起きるわけではない。ただ生態と思考方法が異なる人達が同じ宇宙船や宇宙船の外の世界で関係を結ぶ。浅い関係、深い関係、知らないが故の誤解、片方だけの理解、相互理解。物語というのは大抵そういうものでできているが、まったく生態が異なる異星人種と、銀河規模では遅れている人類という世界だからこそ、いろんなことがよく理解できる。とてもやさしい視点に包まれた冒険小説。
さて物語。地球はもはや生存に適さないぐらいに汚れてしまった。人類集団のうち、富裕な者たちは火星に移住し、そうではない生き残った者たちは離郷船団であてどなく新たな地を求めて旅立った。その後、人類はほろぶ直前に銀河共同体に属する種族のひとつに発見され、かろうじて銀河共同体の一員として加わることを許された。
物語はそれから数百年後にはじまる。
この銀河共同体は、各星系間を超次元を用いたトンネルのようなものを使って時間の制約なしに往来し、銀河共同体の一体性を保っている。しかし、このトンネルを建設するには、トンネル建造船がその目的地まで実空間でたどり着き、そこから、もよりのネットワークハブのようなところまで接続させる必要がある。逆に言えば、もよりのハブのようなところまではトンネルを使って行けるが、そこから目的地までは結構長い月日を航行しなければならないのだ。
小さな仕事ばかり請け負っていたトンネル建造船ウェイフェアラーのアシュビー船長は離郷船団出身の人類。確実、堅実な仕事ぶりで知られていたが、事務経理作業の信頼性を高める必要があった。そこで求人をかけて雇用したのが、火星出身のローズマリー・ハーバー。若く、まだ宇宙経験も浅いが、銀河共同体の異星種族の言葉にある程度精通し、事務関係の仕事もできる期待の新人だ。事務専門員を雇用したことでウェイフェアラーには、銀河共同体政府から大きな仕事が舞い込んできた。現在、共同体に加盟していない内部紛争の激しい種族の一派と加盟協定を結んだので、彼らが支配する銀河核周辺部に新たなトンネルを作って欲しいと。まだ紛争の残る地域であるが、危険はないと言われ、長い長い旅に出ることとなった。
ウェイフェアラー号は人類中心の船で、船長とローズマリーのほかにも気難しい土星の衛星出身の藻類学者、気がよくて腕の立つ独立植民地出身の機械技師、AIにぞっこんのコンピュータ技師という人類の乗組員がいる。それ以外にも、エイアンドリスク人の明るいパイロット、グラム人のやさしい医師兼料理人、シアナット・ペアとよばれて他者と関わりを持たない超次元ナビゲーター、それに、みんなに愛されているAIのラヴィーがいて、気持ちいい食堂がついていた。そこで、少しずつそれぞれの人達と関わり、関係性を深めていくローズマリー。主人公のローズマリーをはじめ、ひとりひとりに過去の物語があり、現在とつながっていく。
特異なことが起きないといっても、強盗あり、犯罪あり、恋愛あり、秘密ありで飽きることはない。
ローズマリーを中心とした、それぞれの人々の物語である。
生態や考え方が異質だから、忌避し、差別する。それが人類の歴史だった。
しかし、お互いを知的生命体として理解する、理解しようと努力することで、その負の思考が愚かなことだったと分かる。コミュニケーションと相互理解は、世界を動かす正の原動力なのだ。
いや、堅苦しい話しにしてしまったが、ほんとうに軽い冒険小説であり、難しいことは何もない冒険活劇、スペース・オペラなのだ。
気持ちいい「スターウォーズ」とでも言おうか。
よい物語に出会った。
(2021.2)