映画 デューン(2021)

デューン(2021映画)
公式サイト https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/

 生きててよかった。私の心の中にあった漠然とした「デューン」の風景が、具体的に、こうだよねっていう形で映像化されていた。見る前からわくわくしていたけれど、見ている間、ずっと静かな興奮状態だった。映画を見ていて、こんなにうれしかったことはない。最近の映画はとても映像が美しく、「ゼロ・グラビティ」や「インターステラー」「オデッセイ」など宇宙を描いた作品はいずれも映画館のIMAXで見た上に、ブルーレイまで買ってくり返し見ている。しかし、それらの作品では得られなかった喜びが、「デューン」にはあった。

 さて、まずは、小説版で概要を紹介しておこう。
「デューン 砂の惑星」は、フランク・ハーバードが1960年代に上梓したSF小説である。遠未来の人類史を描いたスペースオペラだが、砂の惑星デューンの生態系、惑星環境、そこで人類が生きるということについて実にみごとに描かれ、そのストーリーもさることながら背景描写がSFの範疇を超え、時代を超えて読み継がれている作品となった。小説の「デューン」については、初期3部作では、主人公のポウル・アトレイデを中心にアトレイデ家と砂の民フレーメンとの関わり、敵となった皇帝家、仇敵ハルコンネン家、古き謀略の修道会ベネ・ゲゼリットなどの魅力ある登場人物が描かれる。作品はそこで終わらず、後期4部作では、さらにその先の未来を描いた作品群だが、第6部で未完のままフランクの死を迎えた。今世紀になって、息子のブライアン・ハーバートが共著者とともに、父フランクの膨大なメモを基にしたと言ってフランクの第一部の前史3部作ならびに、第6部以降の作品3部作を発表しているが、その評価は分かれている。
 日本では初期3部作は早々に翻訳され、長く再版されてきたが、現在では第1部のみが再版されているにすぎない。後期3部作は翻訳されたものの発行部数は少なく、特に第6部は僅少だったようで、古本でも入手が非常に困難である。かくいう私も、第5部までは買っていたが、第6部は「もういいや」と手を出さず、のちに非常に後悔した。いまでは第6部の1、2巻までは入手したが、第3巻は古本のプレミアがすごくて手を出せていない。また、ブライアン作品(新デューン)は、前史3部作のみ翻訳されており、続編3部作については、第2~6部の再版がなければ意味をなさないので依然翻訳されていない。

 私が「デューン」と出会ったのは、14、15歳の頃だ。石森章太郎(当時)の表紙とイラストで、版を重ねた第1部を読み、繰り返し繰り返し読んだ。そして、長じるにつれて翻訳される続編の数々。第6部のころは、社会人となり最初の会社を辞めるちょっと前のことだった。中学生の私にとって、「デューン」で語られる生きるための格言は身にしみていくものだった。ざっくり書くと「恐怖は心を殺すもの、恐怖が通り過ぎるのをみつめとけ」ってな感じの言葉を、怖がりの私はデューンの風景とともに繰り返し心に刻み込んだ。
 それが映像で表現されたのである。泣くよ。

 映画の話に戻る。これまで「デューン」は映画化とテレビシリーズ化が行なわれている。映画版は有名なデヴィッド・リンチ(1984)だが、当時のSFX(特殊撮影)技術や限られた予算で、奮闘したものの、「そうだよね感」のある映画であった。実際、リンチ自身が失敗作だと認めていたのだ。2000年にテレビシリーズとして3部作がつくられ、それなりの評価を得たが、やはり当時のテレビシリーズであり、予算は限られたものであった。
 今回は、違う。
 マジだ。
 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、「メッセージ」で映像化不可能なSF作品を見事に映像化し、さらに、「ブレードランナー2049」で、リドリー・スコット監督が描ききれなかった原作者フィリップ・K・ディックの世界と前作「ブレードランナー」の世界を見事に融合した監督である。しかも、予算はたっぷり。
 本気だ。
 IMAXレーザー上映の期間が短かったので、無理をおして見に行った。どうしても、最高の映像で見たかったからだ。
 最高だ。
 ストーリーとしては、小説第1部の日本での4冊のなかの3冊目の途中ぐらいまでの進行で、主人公ポウルが、父レト侯爵や母ジェシカ、側近のダンカン・アイダホ、ガーニー・ハレックらとともにそれまで宿敵ハルコンネン家が治めていた砂の惑星デューンを皇帝の名によって治めるために、故郷の水の惑星アラキスを離れるところからはじまる。そして、レト侯爵がハルコンネンの陰謀により殺され、ジェシカとともに砂の民フレーメンの協力を求めて砂漠に向かい、フレーメンと出会うところまでである。物語としては、まさしく導入部分のみ。2時間半以上にわたり、美しい映像で、複雑な物語の込み入った人間関係や惑星の姿が少しずつ描き出されていく。
 これぞ、デューンである。
 遠未来の恒星間航行技術をもつ世界で貴族社会が営まれ、砂の惑星デューンでしか産出されない謎に包まれた微量生体生産物「スパイス」をめぐっての権謀術数。その中心にいるのがポウル・アトレイデという若者の存在。秘めた力を予感させるポウルの予知夢。若き侯爵となり、フレーメンと出会うことで、ポウルを軸に人類世界をすべて巻き込む動乱が訪れようとしている。ポウルの運命の人、フレーメンのチャニとの愛もまた、予感の中にしかない。そんな物語の気配をたっぷりとふりまいて、映画「デューン」は幕を引く。そして、ちょうど映画を見に行った日に、続編制作本決定との一報が。日本ではそれほど盛り上がっていないのでちょっと心配していたが、欧米でのフランク版小説「デューン」の人気は衰えていなかったようである。
 よかった。
 どこまで続くか分からないが、全部見るまで死ねない。

公式トレイラー youtubeより。 こんなもんじゃない。本編最高!