孤児たちの軍隊 ガニメデへの飛翔


ORPHANAGE

ロバート・ブートナー
2004

 西暦2037年、人類は滅亡の危機に瀕した。突然宇宙から地上に無差別に爆弾が落ちてきたのだ。木星の衛星ガニメデに太陽系外の存在が前線基地をつくり、そこを拠点に地球を壊滅させようとしている。ガニメデの温度は最低気温摂氏マイナス18度まで上昇し2%の酸素を含む薄い大気ができていた。そして、異星の侵略者は地球を同様に作り替えたいらしい。
 宇宙開発が停滞していた地球では、なんとかして人類滅亡を防ぐための方策を考えていた。まずは、爆弾が落下する前に宇宙空間で破壊する、そしてガニメデの基地を破壊する。
 古いスペースシャトルをはじめ、地球の資源をつかっての先の見通せない闘いがはじまった。

「さらばーああああちきゅうよおおおおーたびだーーーーつふねはああああーーー」ってなもんである。アメリカの生んだ21世紀のミリタリーSFは、どことなく「宇宙戦艦ヤマト」を彷彿させる設定の物語。
 そして正統派のミリタリーSFである。
 18歳の少年ジェイソン・ワンダー君が、最初の爆弾で都市ごと母親を殺され、歩兵として軍に入ってから新兵訓練、任官、いろんなことがあって兵士として成長し、ガニメデの地上戦に突入して…。というわけで、王道のミリタリーSFである。
 そして、急な宇宙からの攻撃に、最初はなすすべもない人類。手持ちの古いスペースシャトルや、あろうことかアポロ計画の設計図、放置されたジャンボジェット機、ベトナム戦争の頃の陸軍資材まで持ち出して、兵士を育て、戦略を練り…。
 つりがきは“21世紀の「宇宙の戦士」”。まあ、たいていのミリタリーSFが“●●の「宇宙の世紀」”と書くのだが。
 ちょっと調べてみると「911」とその後のアフガン、イラク侵攻なども踏まえたアメリカの視点で書かれた作品らしい。

 ミリタリーSFはSFのサブジャンルとしてこのように兵士が何らかの軍に入り、成長していきながら事態を解決し、同時に昇進していくというのが典型であり、お約束だ。滅多に読まないのだが、たまたま手に取ってしまった。特にひねりもないのでするすると読める作品でもある。人はたくさん死ぬが…。
 調べると5巻シリーズになっている。ほほほう。機会があったら読もう。

 さて、1970年代、日本では「宇宙戦艦ヤマト」が大ブームになった。宇宙SFアニメとしても先駆けとなる作品であるが、ロボットものではないところが特徴である。1970年代というのは、1945年に第二次世界大戦で枢軸国の大日本帝国が敗戦し、アメリカの占領をへて再独立してから20年後ぐらいにあたる。大人たちにとって戦争はまだ記憶に新しい頃で、大日本帝国が総力をかけて建造し、出航しながらもあっさり撃沈した戦艦大和は悲劇のひとつとして心に刻まれていた。「宇宙戦艦ヤマト」は、戦後の高度成長期を迎え「日本はすごい技術力をもっていたし、いまもその技術力は失われていない」という再生を誇る象徴のようなアニメだったのだ。
「孤児たちの軍隊」の気配が「宇宙戦艦ヤマト」っぽいと感じたのは、古いガジェットを新しい技術とミックスさせながら得体の知れない巨大な敵に立ち向かうという設定と、その背景にある「誇りの復活」のあたりにある。アメリカは「911」ではじめて本土攻撃を経験した。それまでは日本軍によるハワイ州のパールハーバー(真珠湾)奇襲攻撃がもっとも直接的な他国からの攻撃だったのだ。「911」の衝撃はいかほどだったろう。
 本作はアメリカで人気作になったという。同録の著者インタビューや解説では、本作の背景について詳しく書かれているので気になる方はどうぞ。