プロテクター

ラリイ・ニーヴン
1973

 ノウンスペース・シリーズの1冊。「フスツポク」「ヴァンダーヴェッケン」「プロテクター」の3章からなる長編である。ノウンスペースといえば「リングワールド」につきるのだが、本書「プロテクター」にはちょっとした思い入れがある。初版が翻訳されのは1979年で、たぶん高校生になった頃に本書を読んでいる。若干難解だったので、読後感はさほどでもなく社会人になってから一度手放したのだが、表紙の記憶は鮮明で、いつか読み直したいと思っていた。還暦間近になって、ようやくプロテクターの魅力が分かってきたのだ。
 ノウンスペース・シリーズはニーヴンの未来史シリーズで、その名の通り「既知宇宙」をベースにしたドラマである。本書はその初期にあたる時期、人類がはじめてアウトサイダー、すなわち地球外の高度に科学力を持った知的生命体と遭遇する物語を描いている。
 実はニーヴンのノウンスペースは太陽系からはじまるのだが、古い科学知識や未知の情報をもとにしながら古典SFにも触発されつつ描かれているため、初期の作品群には古さもある。ニーヴン自身もそれは認めていて、書き直してもややこしくなるだけだからそのままにしてある。たとえば、火星には火星人がいて、人型をしており、かつては科学文明をもっていたようだがすっかり退行してしまっており、なおかつ、水と反応して燃えてしまうという性質を持つ。どう考えても古いSFになってしまうので、この長編「プロテクター」で火星人は払拭されてしまうのだ。

 さて、はじまりは太陽系のベルター。小惑星帯に生きる人たちのことである。ベルターは太陽系内の資源を探索し、居住エリアを増やし、将来より広い宇宙に出ることと、おそらく最初にアウトサイダーに遭遇することを思いながら、人類の未来を切り開いていた。すでに人類は太陽系外のいくつかの星系で入植を果たしており、それぞれが自立の道も模索していたが、まだ人類の中心はあくまでも太陽系だったのだ。
 さてベルターのひとり、資源収集家のジャック・ブレナンが太陽系に入ってきたアウトサイダーにもっとも近いところを航行していた。このアウトサイダーこそ銀河の中心エリアに近いパク星系から来たパク人の名前をフスツポクというプロテクターであった。プロテクターとはパク人の最終形態でもっとも知性が高く、自分の若い血縁族の保護者である。そして、血縁族をもたないプロテクターは生きる目標を他に持たなければ食欲を失い死んでしまう存在である。フスツポクは、かつてパク星を飛び出していった過去の歴史を調べ、記録から宇宙船を復活させ、その航跡を追って太陽系までたどり着いたのである。
 そしていま近づいてきたベルターの船に乗っていたジャック・ブレナンをとらえ火星に進路を取った…。
 一方、地球の長命人であり、かつてARM(国際連合警察)のトップのひとりだったルーカス・ガーナーは、ベルターのリーダーのひとりニコラス(ニック)・ブルウスター・ソールからアウトサイダーの動向と国連が管理している火星への進入許可を求められ、高速の宇宙船を提供しともに火星に向かうことにした。地球人にとっても、ベルターにとっても、いや人類すべてにとってアウトサイダーとの接触は大事件なのだから。

 最初の接触のあった2120年ごろから約220年が過ぎた。フスツポクは死にそのアウトサイダーの宇宙船には捉えられたはずのジャック・ブレナンが乗って太陽系をふたたび離れ、目的地とみられた人類の植民星ヴンダーランドにも寄らずさらに遠くまで旅を続けているのが確認されていた。
 この2世紀で、植民星のジンクス星、プラトー星、ヴンダーランド星、ウィ・メイド・イット星、ホーム星はそれぞれ紆余曲折はありながら人口を増やし独自の発展を遂げていた。小惑星帯も地球もまた平穏な時期を迎えていた。
 そんな2340年にふたたびプロテクターをめぐる事件が地球を起点に動き出す。それはエルロイ(ロイ)・トルーズデイルの身に起きた不思議な出来事である。地球の自然公園で山登りをしていたはずが目が覚めると4カ月が過ぎ、記憶もないままに自分の声で録音されたテープにメッセージが残っていたのである。それは、全人類とパク人をまきこむ大きな歴史の幕開けでもあった。

 これ以上は書かないし、書けない。読むしかない。
 ただ、プロテクターと人類の関係についてはネタバレになるが、ちょっとネットをたぐれば読んでなくてもいろいろ出てくるので少しだけ解説しておく。
 パク人は、生まれて青年期までは事実上知能をほぼ持たない。青年期に繁殖し、繁殖期が終わると第三の成長期を迎え、ある種の植物を節食することでプロテクターになっていく。身体の節々にメロンのようなこぶができ、皮膚は硬化し、性器は失われ、知能は急速に向上し、そして、自分の血族、子孫を保護し守ろうという本能的な意識にとりつかれる。
 それは人類からみるとまるで老人そのもののようであった。
 そして、人類とは、パク人の亜種であり、おそらくかつてパク人が太陽系に入植したあと、プロテクターになるための植物が育たず、プロテクターを失ったあとになんとか生き残った若いパク人たちが幼生成長することで進化した結果生まれた存在だったのである。
 つまり、人類の老化とはプロテクターになろうにもなれなかった姿なのだ。

 そう、いま、私はプロテクターのなりそこねになりかかっている。すなわち老化だ。
 これを初めて読んだ頃は、第二次性徴の終わり頃、青年期にさしかかっていた。
 そして40数年後のいま、私は老化をはじめている。
 プロテクターにはなれないし、なろうとも思わないが、視点が変わっていく。
 諸君、時は確実に過ぎていくのだ。
 この先に、いつになるか分からないが死が訪れる。
 その前に、老化は進む。理解力は落ちる、読むことが辛くなる。
 その前に、それより前に、1冊でも多くの本を読みたいものだ。それが再読であっても。