スタープレックス
STARPLEX
ロバート・J・ソウヤー
1996
時は2094年、場所は地球から53000光年離れた異星知性体イブ族の母星からさらに368光年離れた星系で調査作業をしている宇宙船スタープレックス号。1年前に就航したこの巨大な宇宙船は、イブ族、地球の人類・イルカ族、地球から7万光年離れた惑星リーボロを母星とするウォルダフード族が資金供与してリーボロ軌道上で建造された。この3つの母星にとって史上最大の宇宙船であり、各種族合計1000名の乗員が「ショートカット」の探査と他の知性体とのファーストコンタクトを目的に乗船している。
ショートカットとは、この宇宙に何者かによって設置された恒星間ゲートのようなものであり、そのショートカットに何者かが故意であれ偶然であれ入り込んだ時点で起動する仕組みになっている。そして進入角によって到達する出口のショートカットが異なる。分かりやすく言うと「どこでもドア」だ。このショートカットを発見し、利用可能にするためには、実空間で休眠しているショートカットにたどり着き、入口として開く必要がある。イブ族、人類・イルカ族、ウォルダフード族は惑星連邦を組んで、既知可能な宇宙を広げようとしていたのだった。
主人公はキース・ランシング。人類の社会学者でありスタープレックス号の指揮官でもある。その妻のクラリッサ・セルバンテスは生命科学部門の責任者でスタープレックスのナンバー2のひとり。もうひとりのナンバー2はジャグ・カンダロ・エン=ペルシュ、ウォルダフード族であり物理科学部門責任者である。つまり、ショートカットを含む天文領域の調査はジャグが主導権をとり、内部のエコシステムおよび生命が存在する可能性がある場合の調査責任はセルバンテスにある。そして、キース・ランシングは全体を調整する役割がある。ウォルダフード族は人類に対してあまり好感を持っていない。しかも、キースとクラリッサは夫婦。ジャグはキースが生命科学部門をひいきしていると怒り狂っている。キースはスタープレックス号のミッションを果たさなければならない。冒頭から異種族間のいざこざの気配あり。
大元ネタは「宇宙船ビーグル号の冒険」(A・E・ヴァン・ヴォークト、1950)である。科学調査探検船であるビーグル号も乗員1000人なんだよ。
あと80年代フレデリック・ポールの「ゲイトウエイシリーズ(ヒーチーシリーズ)」も彷彿とさせる壮大な展開が待っている。同時代的にはスティーヴン・バクスターの「ジーリーシリーズ」の感じもある。
ストーリーはタイムラインとしては2系列に書かれている。ひとつは、主人公のキース・ランシングが会議のためにひとりでショートカットに突入したら予定とは違う奇妙な場所に出現してしまい、そこで不思議なガラスのような男とキースの過去から現在までを対話する流れ。そこではキースの人生を追うことで世界の過去から現在、未来が語られる。
もうひとつのタイムラインはキースが会議が必要になる大きな出来事のタイムライン。その出来事はキースがショートカットに入る前から入った後まで連続して描かれる。
異星人との諍い、ショートカットを通過してきた恒星の存在と異質な生命体、そして語られる宇宙の創世から未来への道。
壮大。
だけど、どれもこれもネタバレになるので書けない。
後書きの解説で大野万紀氏が本書で解き明かされるおもな謎やアイディアを15上げている。
ちょっとだけ上げておくと、
4 ダークマターの正体とはなにか。
9 銀河の渦状肢はどうしてできたのか。
14 この宇宙で人間原理はなぜ有効なのか。
なんだかこれだけみるとグレッグ・イーガンばりではないか。でも、本書は軽めのハードSF。エンターテイメント重視。これをシリーズものにせず、単発で書いて作品としてすっきりしちゃうのがロバート・J・ソウヤーという作家なのだろうな。
(2022.2.5)