最終定理

最終定理
THE LAST THEOREM
アーサー・C・クラーク&フレデリック・ポール
2008
(TW)おもしろかった。古き良きSFの巨匠たちの佳作。権力の縦構造が変わらないのは20世紀に生きた者の宿命か。
 フェルマーの最終定理は、アンドリュー・ワイルズ博士が1995年に証明したのだけれど、それはフェルマーの証明とは異なる手法で行われており、シンプルで美しい証明をすることになるのが、本書の主人公のランジット・スープラマニアンである。本書は、スープラマニアンの数奇な人生をたどりつつ、人類の未来を描いた、2大SF巨頭による「もう最後だし、書きたいこと書いてやれ」作品である。どこか、J・P・ホーガンの「創世記機械」を思わせ、クラークの「幼年期の終わり」をはじめ、様々な作品群を感じさせ、ポールの「ヒーチー年代記」や「マン・プラス」のにおいもする壮大な作品である。
 とはいえ、世界観や社会構造は、19世紀、20世紀型の縦構造のままであり、なじみやすいといえばなじみやすいが、近年の超未来、人類変容作品群などに比べれば、登場人物、異星人等の思考が古典的である。いや、批判しているのではない、クラークもポールも、期待された作品を提示しただけであり、同時に、読者および人類への「期待」を書いた作品である。しかし、それは、50年代、60年代のような安易な楽観主義や悲観主義とは異なり、現実の複雑さ、不合理さを知った上での提示であり、期待である。
 この後、2008年にクラークは死去。本書に書かれている宇宙エレベーターも、ソーラーヨットも実現されていないことには、きっとがっかりだろう。もうひとつ、オーバーロードとまではいかなくても、地球外知性、地球外生命の発見がされなかったことも、がっかりしているに違いない。でも、もしかすると、クラークは遠い将来に復活するのかな。もしかすると。
(2013.4.21)

任務外作戦

任務外作戦
A CIVIL CANPAIN
ロイス・マクマスター・ビジョルド
1999
(TW)今年はじめてのSF。というより、今年はじめての小説。ようやく読む時間がとれて、嬉しい。手始めは軽めのシリーズもの。今年はこれからいったい何冊読めるだろう。厳しいなあ。
 さて、マイルズシリーズ13作品目は、いよいよ皇帝の結婚とマイルズ卿の求婚。オールスターキャストのどたばたコメディとなっております。いいんだよ、ここまで読んだ人たちならば、楽しく、はらはら、後進惑星バラヤーの政治や観衆にも詳しいし、SFガジェットはほどほどに詰め込まれているし、ストーリーとして読みたいだけなんだから。
 そうそう、本作品ではバイオハザードが登場。生物は一度世界に放つと繁殖するからねえ。遺伝子操作してあとからしまった、って、ことになったりすると大変だよ。
(2013.3.31)

量子怪盗

量子怪盗
THE QUANTUM THIEF
ハンヌ・ライアニエミ
2010
(TW)三部作の一らしい。「ゴールデン・エイジ」(ジョン・C・ライト)を思い出す。あちらが、レンズマンなら、こちらはアルセーヌ・ルパンだが、主人公の怪盗、「ルパン三世」っぽいな。
 ポスト・シンギュラリティの遠未来人類を描いた作品。イギリスSFだけど、主人公はフランスの名怪盗ルパンさながら。内容がごりごりのポスト・シンギュラリティ、ヴァーチャルワールドもの。舞台は主に火星。もちろん、探偵も出てくるし、戦闘美少女だって登場する。アニメ化するには難しすぎるけれど、あと10年ぐらいしたら、そんなに難しい話になっていないかもしれない。
(2012.11.11)

アンドロイドの夢の羊

アンドロイドの夢の羊
THE ANDROID’S DREAM
ジョン・スコルジー
2006
(TW)史上初?おならSF!! 立派な21世紀古典的サイバーパンク&アクション&宇宙大戦ものです。主人公の仕事は「異星知性体への悪い知らせの伝達者」。新しい仕事は、羊の保護?? あーすっきりした。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」P・K・ディックのあまりにも有名な作品であり、「ブレードランナー」というあまりにも有名なSF映画を生み出した作品である。
 地球は宇宙に進出し、銀河の様々な知的種属と出会い、貿易し、交渉し、時には緊張関係にあった。
 ある陰謀で、地球とニドゥ族の貿易交渉で事件が起き、この事件を解決するためにハリー・クリークが呼ばれた。元宇宙兵士で凄腕のハッカー。そして、現在の職業は「異星知性体への悪い知らせの運び屋」。ところが、今回秘密裏に指示された仕事は、羊を探して、保護して、連れてこい、っていうこと。羊は「アンドロイドの夢」という品種。これがないと地球には圧倒的に不利な星間戦争が起きてしまう。期限は1週間。ところが見つけた羊の正体はあれで、これが、こうして、ああなって、こうなっちゃう。
 タイトルはディックだけれど、内容はスコルジーらしい作品。笑えるし、すっきりする。
(2012.11.4))

成長の儀式

成長の儀式
RITE OF PASSAGE
アレクセイ・パンシン
1968
(TW)地球の人口の読みがするどい。解説や訳者あとがきにいろいろ背景が描かれているけれど、裏読みしたくないなあ。めずらしい1人称作品でもある。
 読んでから1年以上経った。ぱらぱらとめくってみる。14歳の少女の一人称作品である。巨大な宇宙船で生まれ、育ち、学び、そして、植民惑星での「成長の儀式」、大人になる儀式に備えて教育を受けている。父は宇宙船社会の政治家とも言える存在。いじめがあり、出会いがあり、師があり、そして、大人になる。死がある。自分だったかも知れない、死。
 14歳だから。
 日本だと中学校2年生だ。
 僕は世界におびえていたよ。
 35年ほど前のことだ。
 1979年。
 おびえていたから、後ろに付くのではなく、前に出ようとした。
 たぶん、そういうことだったんだろうと思う。
 ところで、本書が書かれたのは1968年。まだベトナム戦争と反戦運動がつづいていたよ。そういう背景があることは間違いないんだ。深読みしたくないけれど。
(2012.10.30)

レジェンド

レジェンド
LEGEND
マリー・ルー
2011
 ヤングアダルト近未来ディストピアのボーイ・ミーツ・ガール(逆かも)、もの。
 1984年生のアメリカ移住中国人のデビュー作である。
 アメリカをはじめ、世界が崩壊し、新たな小規模国家が次々と生まれ、戦いが起きた。
 アメリカ共和国は、強権国家となっていた。子どもの頃の能力判定審査で選別され、優秀な者はエリートへ、ほどほどのものは労働者へと割り振られ、下層部はどこに行くのかは分からない。情報は制御され、遮断され、人々はそこに生きることを自明のこととする他はなかった。
 デイは15歳。審査に落ち、逃亡し、そして、犯罪者となった少年。共和国のお尋ね者。テロリスト。しかし、彼は捕まらない。やがて彼は下層部の人たちの希望ともなった。
 ジューンは15歳。最高の得点で審査を通過し、エリートとして嘱望されている少女。父母を早くに事故で亡くし、たったひとり国家警察のエリート将校である兄を親代わりに生きてきた。
 そして、事件が起り、ふたりは出会う。物語が始まる。
 ちょっと先の未来がディストピアだって、みんな書いている。
 みんな予感している。
 遠い国の話ではなくて、今、そこにある世界。
 それでも、少女は少年に出会い、少年は少女に出会い、そして、次の希望が生まれるのさ。
 おびがすごい。「戦え! 15歳! 『AKIRA』の近未来で犯罪少年(ロミオ)と天才少女(ジュリエット)が出逢う。恋とスリルの米国版『NO.6』(あさのあつこ)、堂々開幕…大森望」だってさ。ヤングアダルトだからね。このくらい書かなきゃ。
(2012.6.30)

連環宇宙

連環宇宙
VORTEX
R・C・ウィルスン
2011
「時間封鎖」「無限記憶」に続く三部作の最終刊。大満足である。ああ、おもしろかった。でも、大落ちがもったいない。もっと読みたいのに、きちんと終止符が打たれた。
 舞台は、時間封鎖と無限記憶の間の世界。そして、登場人物の少年オーリン・メイザーが書いたノートには、1万年後の世界が描かれる。それは、「無限記憶」で登場したターク・フィンドリーのその後でもあった。交互に描かれる世界。「時間封鎖」でも「無限記憶」でも明らかにされなかったすべてがここで明らかにされ、そして、救済される。
 新たなる神の登場。
 それは、残酷な機械の神なのだろうか?
 情報と生命と宇宙を扱った21世紀頭の小説として、秀逸である。
 ストロスなど他の作家のSFを読みたくさせる力も持つ。
 21世紀初頭を代表する作品群であることは間違いない。
 とにかく読んで。
 いろいろ書きたいのだが、書かない。
 これは読む本だ。
(2012.6)

クタス

クタス
THE FADED SUN: KUTATH
C・J・チェリイ
1979
 色褪せた太陽3部作の完結編。クタスもまたケスリスと同様に惑星の名前。ションジル(移ろいの儀式)を経て、ニウン、シーパン、ダンカンが降り立ったのは、砂漠の惑星クタス。そこがムリ族の旅の終着点。
 そして、物語のクライマックス。
 滅び行く惑星で、武士道が発揮される。
 最後までぶれない種属の物語。
 それにしても、ダンカンよ。
 ああ、おもしろかった。
(2012.6.12)

ションジル

ションジル
THE FADED SUN SHON’JIR
C・J・チェリイ
1978
 色褪せた太陽シリーズの2部。ションジルとは、移ろいの儀式。だから、第2部は密室劇になる。ムリ族の戦士ニウンと、ムリ族の指導者のシーパンと、ムリ族の秘密の一端を共有した人類の軍人ステン・ダンカンが、ムリ族の過去を求めて人類の宇宙船で旅をする。宇宙船の外側では、人類と戦争をして敗れ、かつては支配していたムリ族を恐れるレグル族が、複雑な権力闘争を広げていた。ニウン、シーパンとダンカンが訪れる過去は、すべて死に絶えた惑星ばかり。ムリ族が通った後には、死しか残されていないのか。ムリ族とは何者で、何を求めているのか。ダンカンは、人類であることとムリ族とともに生きることの狭間で選択を迫られる。
「ケスリス」はやや冒険活劇的なところがあったが、「ションジル」は移ろいの儀式らしく、心理劇に近い。舞台は宇宙船という密室。登場人物は3人。恋愛はない。常にある緊張関係のなかで、繰り返される理解と誤解。
 外側の人類とレグル族のいざこざも物語に深みを与える。
「デューン」が今読んでもおもしろいのと同様に、本作は今読んでも決して色褪せていない。
(2012.5)

ケスリス

ケスリス
THE FADED SUN KESRITH
C・J・チェリイ
1972
 色褪せた太陽3部作の1冊目、初読。先日古書店で入手。チェリイは好きな作家だが、食わず放置の作品。読んでよかった。「デューン」のフレーメンのような人たちの話。
 フレーメンにあたるのがムリ族。人類とは異種族だが、人類にとてもよく似た種属である。
 簡単なストーリーは、商人であるレグル族と流浪の戦士であるムリ族は傭兵関係を永年結んでいた。正確に言うとレグル族の各家(国家のようなもの)とムリ族の各部族がそれぞれ傭兵関係を結んでいた。人類がレグル族と出会い、覇権をかけた戦争が勃発した。人類が直接戦うのはムリ族である。
 惑星ケスリス。レグル族と人類の停戦によってレグル族から人類に明け渡されることになった荒涼とした惑星。レグル族とともに、少数のムリ族がこの惑星に城塞を持ち、暮らしていた。ニウンはムリ族の戦士であり、人類との戦いへの出陣を待つ最後の若者である。
 滅びの予感を秘めながらも、同時に若者としての未来を夢見ていた。
 しかし、その夢は潰える。
 戦争は終わり、レグル族はムリ族を裏切ったのだ。
 人類とレグル族とムリ族。それぞれの思い、思考、行動の違い。同じ種属の中での思い、思考、行動の違い。そして共通性。
 人類とムリ族が惑星ケスリスで出会ったとき、はじめて戦いと死以外の行動が生まれる。
 それは何を生むのか…。
 この小説になにか教訓を求めたりはしない。
 ただただ、ムリ族という種属を生み出したチェリイの力業に恐れ入るばかり。
 おもしろい。
(2012.5)