レジェンド

レジェンド
LEGEND
マリー・ルー
2011
 ヤングアダルト近未来ディストピアのボーイ・ミーツ・ガール(逆かも)、もの。
 1984年生のアメリカ移住中国人のデビュー作である。
 アメリカをはじめ、世界が崩壊し、新たな小規模国家が次々と生まれ、戦いが起きた。
 アメリカ共和国は、強権国家となっていた。子どもの頃の能力判定審査で選別され、優秀な者はエリートへ、ほどほどのものは労働者へと割り振られ、下層部はどこに行くのかは分からない。情報は制御され、遮断され、人々はそこに生きることを自明のこととする他はなかった。
 デイは15歳。審査に落ち、逃亡し、そして、犯罪者となった少年。共和国のお尋ね者。テロリスト。しかし、彼は捕まらない。やがて彼は下層部の人たちの希望ともなった。
 ジューンは15歳。最高の得点で審査を通過し、エリートとして嘱望されている少女。父母を早くに事故で亡くし、たったひとり国家警察のエリート将校である兄を親代わりに生きてきた。
 そして、事件が起り、ふたりは出会う。物語が始まる。
 ちょっと先の未来がディストピアだって、みんな書いている。
 みんな予感している。
 遠い国の話ではなくて、今、そこにある世界。
 それでも、少女は少年に出会い、少年は少女に出会い、そして、次の希望が生まれるのさ。
 おびがすごい。「戦え! 15歳! 『AKIRA』の近未来で犯罪少年(ロミオ)と天才少女(ジュリエット)が出逢う。恋とスリルの米国版『NO.6』(あさのあつこ)、堂々開幕…大森望」だってさ。ヤングアダルトだからね。このくらい書かなきゃ。
(2012.6.30)

連環宇宙

連環宇宙
VORTEX
R・C・ウィルスン
2011
「時間封鎖」「無限記憶」に続く三部作の最終刊。大満足である。ああ、おもしろかった。でも、大落ちがもったいない。もっと読みたいのに、きちんと終止符が打たれた。
 舞台は、時間封鎖と無限記憶の間の世界。そして、登場人物の少年オーリン・メイザーが書いたノートには、1万年後の世界が描かれる。それは、「無限記憶」で登場したターク・フィンドリーのその後でもあった。交互に描かれる世界。「時間封鎖」でも「無限記憶」でも明らかにされなかったすべてがここで明らかにされ、そして、救済される。
 新たなる神の登場。
 それは、残酷な機械の神なのだろうか?
 情報と生命と宇宙を扱った21世紀頭の小説として、秀逸である。
 ストロスなど他の作家のSFを読みたくさせる力も持つ。
 21世紀初頭を代表する作品群であることは間違いない。
 とにかく読んで。
 いろいろ書きたいのだが、書かない。
 これは読む本だ。
(2012.6)

クタス

クタス
THE FADED SUN: KUTATH
C・J・チェリイ
1979
 色褪せた太陽3部作の完結編。クタスもまたケスリスと同様に惑星の名前。ションジル(移ろいの儀式)を経て、ニウン、シーパン、ダンカンが降り立ったのは、砂漠の惑星クタス。そこがムリ族の旅の終着点。
 そして、物語のクライマックス。
 滅び行く惑星で、武士道が発揮される。
 最後までぶれない種属の物語。
 それにしても、ダンカンよ。
 ああ、おもしろかった。
(2012.6.12)

ションジル

ションジル
THE FADED SUN SHON’JIR
C・J・チェリイ
1978
 色褪せた太陽シリーズの2部。ションジルとは、移ろいの儀式。だから、第2部は密室劇になる。ムリ族の戦士ニウンと、ムリ族の指導者のシーパンと、ムリ族の秘密の一端を共有した人類の軍人ステン・ダンカンが、ムリ族の過去を求めて人類の宇宙船で旅をする。宇宙船の外側では、人類と戦争をして敗れ、かつては支配していたムリ族を恐れるレグル族が、複雑な権力闘争を広げていた。ニウン、シーパンとダンカンが訪れる過去は、すべて死に絶えた惑星ばかり。ムリ族が通った後には、死しか残されていないのか。ムリ族とは何者で、何を求めているのか。ダンカンは、人類であることとムリ族とともに生きることの狭間で選択を迫られる。
「ケスリス」はやや冒険活劇的なところがあったが、「ションジル」は移ろいの儀式らしく、心理劇に近い。舞台は宇宙船という密室。登場人物は3人。恋愛はない。常にある緊張関係のなかで、繰り返される理解と誤解。
 外側の人類とレグル族のいざこざも物語に深みを与える。
「デューン」が今読んでもおもしろいのと同様に、本作は今読んでも決して色褪せていない。
(2012.5)

ケスリス

ケスリス
THE FADED SUN KESRITH
C・J・チェリイ
1972
 色褪せた太陽3部作の1冊目、初読。先日古書店で入手。チェリイは好きな作家だが、食わず放置の作品。読んでよかった。「デューン」のフレーメンのような人たちの話。
 フレーメンにあたるのがムリ族。人類とは異種族だが、人類にとてもよく似た種属である。
 簡単なストーリーは、商人であるレグル族と流浪の戦士であるムリ族は傭兵関係を永年結んでいた。正確に言うとレグル族の各家(国家のようなもの)とムリ族の各部族がそれぞれ傭兵関係を結んでいた。人類がレグル族と出会い、覇権をかけた戦争が勃発した。人類が直接戦うのはムリ族である。
 惑星ケスリス。レグル族と人類の停戦によってレグル族から人類に明け渡されることになった荒涼とした惑星。レグル族とともに、少数のムリ族がこの惑星に城塞を持ち、暮らしていた。ニウンはムリ族の戦士であり、人類との戦いへの出陣を待つ最後の若者である。
 滅びの予感を秘めながらも、同時に若者としての未来を夢見ていた。
 しかし、その夢は潰える。
 戦争は終わり、レグル族はムリ族を裏切ったのだ。
 人類とレグル族とムリ族。それぞれの思い、思考、行動の違い。同じ種属の中での思い、思考、行動の違い。そして共通性。
 人類とムリ族が惑星ケスリスで出会ったとき、はじめて戦いと死以外の行動が生まれる。
 それは何を生むのか…。
 この小説になにか教訓を求めたりはしない。
 ただただ、ムリ族という種属を生み出したチェリイの力業に恐れ入るばかり。
 おもしろい。
(2012.5)