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| 【参考資料】 以下に、2000年8月にリトル・タジャン村を訪問し、調査を行った鈴木敦氏のレポートを掲載します。少々専門的ですが、リトル・タジャン村の現況と課題を知る上で貴重なレポートになっています。ぜひご一読ください。 1.はじめに 2000年8月4日より7日まで、今年度から開始された有機トウモロコシ生産の生育状況調査と農業全般の現状を調査することを目的にイフガオ州リトル・タジャン村に滞在した。 リトル・タジャン村は15〜35度の傾斜地が連続する丘陵地である。河川等の水源がないため生活用水は井戸に依存し、水の確保は重要な課題となっている。主な農業はトウモロコシ栽培である。低地のため池のあるところでは小規模の水稲栽培が行われているがこの場合も天水に依存した年1作の栽培である。その他の部分は水牛、牛(ブラーマン種)放牧地として利用されている。 2.トウモロコシ栽培に関して (1)トウモロコシ栽培の概要 リトル・タジャン村を含むこの地域一帯では米とトウモロコシが主要な栽培作物となっている。しかし水源の乏しい丘陵地ではトウモロコシの単一栽培となっている。このモノカルチャー化にはトウモロコシ以外の作物に関してのマーケットないという要因がある。 リトル・タジャン村では4000ha中700haでトウモロコシが耕作されており、現地のNGOであるCORDEV(有機農業と複合農村開発センター)の有機トウモロコシ生産プロジェクトに22人の生産者が参加し、今年から栽培が開始された。 このプロジェクトでは種子はフィリピンで育種された品種、肥料はバガス、鶏糞、モミガラ等を原材料とし、ATC(オルター・トレード・カンパニー)より供給されたものが用いられた。 農薬の使用は当然行われないが、慣行栽培においても除草剤は使用されるものの、殺虫剤、殺菌剤散布よる病虫害防除は行われていない。雑草防除は年2〜4回程度の手除草を行っている。その回数は人件費、人員手配の状況により判断している。 (2)有機トウモロコシの生育状況 トウモロコシの生育は施肥量の影響を顕著に受けていた。施肥設計通り60袋が施肥された圃場のトウモロコシは草高、葉色ともに正常な生育と見られたが、それ以下の施肥量のものについては施肥量に準じ草高も低く、葉色も黄色味がかっており窒素が不足の兆候も見られるものもあった。また肥料に遅配による肥料投入時期のずれも生育に影響していると思われた。それは遅配のため施肥・播種がともに遅れ、その後降雨が少なかったため十分な窒素が有機肥料より供給でされなかったためと思われた。施肥設計通りの施肥量と適期の施肥が行われた圃場では全体的な状態、実太りともに良好であったが、そもそも土壌の肥沃土が低く、肥料を20袋しか投入できなかった圃場では草高は50cm程度で黄化萎縮病に罹患した個体も多く収穫は期待できないと思われた。開墾初年度の圃場では生育障害が見られる場合があった。これは雑草鋤きこみ後、有機物が十分に分解する前に播種をしたためガスによる根の障害と窒素飢餓が要因と思われた。 ステージが異なるため簡単には比較できないが、慣行栽培に比べ有機栽培の圃場では全体的に生育のばらつきが多きように感じられた。有機栽培初年度ということで次年度の課題として耐病性を考慮した種子選定、有機肥料の自給化、圃場の選定・適期準備等が上げられる。 3.放牧地に関して リトル・タジャン村においてトウモロコシ圃場以外はほとんど草地となっている。裸地化している場所はなく、急傾斜地ではシバなどによるルートマットが形成されているため表土流出の防止に役立っていると思われた。草地は大きく2ついに分類される。一つは牧柵で囲まれた、いわゆる放牧草地でシバの一種が優占している。もう一方は草地というより無管理の土地にコゴングラス(Cogongrass、チガヤの一種)優占種となっている草地である。前者の放牧草地にはアメリカン・ブラーマン種が放牧されている。シバ主体の草地で低草利用あるため草生産量はそれほど高くないと思われるが、その分面積で補っている。この草地に1992年よりTalahib(和名不明)という低木が侵入してきており問題となっている。今回見た中でもこの低木がかなり侵入してきている草地があったが、地下茎でものではなく種子により繁殖する種であり根元からの刈り払いで侵入を防げると思われた。後者の草地では主に水牛の繋牧が行われている。その植生はコゴングラス等イネ科植物が優占種であるがネムノキ(Gamosa)の一種と思われるものやクズモドキ(Calopogoium)、その他多種のマメ科植物も自生している。特に計画的な輪換放牧をしているようには見受けられず、その時に草のある場所を選択し適時繋牧しているようであった。コゴングラスはチガヤの一種でその飼料成分は他の草類に比べ栄養価は低い。しかし放牧後の草地を見たが粗剛性の強いコゴングラスも採食されており、在来種牛、ブラーマン種、水牛のような種にとっては十分な飼料になっていると思われた。 この地域の集約的な放牧方法では1ha当たり飼養可能頭数が4〜5頭であるが、施肥等管理を行わない伝統的な放牧方法では1ha当たり0.5頭(1頭当たり2haの草地が必要)とのことであった。 牛の販売収入は生産者にとって大きな収入源となっている。 4.その他の農業に関して その他の農産物としてはバナナ、マンゴー、インゲン、ニガウリ、トマト等も栽培されているがほとんどが自家消費用となっている。それはAuroraで木曜日、日曜日に開かれる市場以外販売先がないこと、農業用水がなく降水に依存し比較的乾燥に強い農作物しかできないためである。作物圃場は水の散布を考えため池等水場周辺に見られた。 水田は谷沿いのため池に隣接し、小規模ながら米の生産も行われている。しかし基本的に雨水利用型であるため年一回の栽培とのことであった。 5.まとめ 以上のようなリトル・タジャン村の現状に対し、検討課題を下記に示す。 (1)等高線耕作の実施 現在トウモロコシ圃場等では等高線耕作がほとんど行われていない。雨期は毎日のように夕刻からかなり激しい雨があり、表土流出が起こる危険がある。実際に野菜圃場では表土流出が起こっているところも目にした。作業性を考えても等高線耕作のほうが有利(上り下りが少なく作業が楽である)でありまずは試験的に実施するべきと考える。 (2)輪作の実施 地力保持、危険率分散(モノカルチャーの危険性回避)等のために輪作は行うべきである。農務省の地方出先機関を訪問したが、そこの技官も同意見であった。技官の話ではかつてこの地域では大豆、甘藷、落花生、緑豆、ガビも栽培されておりそれぞれ地域適合品種があるとのことである。近年それらがトウモロコシ栽培の単一栽培に置き換わった要因にはトウモロコシ以外の市場(買い手)がないためとのことであり、このことも考慮して輪作体系を考える必要がある。輪作体系の一案としては、大豆はトウモロコシと同様に輸出飼料用に、また甘藷は村で養豚飼料にすることでトウモロコシ、大豆、甘藷、牧草等が考えられる。いずれの作物にしても試験的に栽培し、適合性を確認が必要である。 (3)トウモロコシ品種選定の再検討 今回使用した種子はいずれもハイブリッド品種で、その選定は高収量性を重視しているとのことであった。生産者の意見ではこれらの品種は従来使用してきた品種(パイオニアの品種)に比べ耐乾性、黄化萎縮病耐性に劣るとの話であった。現状では特に病虫害が問題となっていないが、有機栽培の場合では特に病虫害に対する抵抗品種も考慮し品種選定をすべきであろう。 (4)有機肥料の作成 有機農業は物質循環を基本とした農法であり、できるだけ地場で有機肥料を作成するべきである。それは今年度のように購入有機肥料の遅配による影響を避けるためでもある。この村で入手可能な材料は雑草、作物残さ等で畜糞等の窒素源が少ないことが問題であるが長期的に取り組むべき課題である。また緑肥利用も有効と思われ、自生のマメ科植物の利用やその他ピジョンピー、セスバニア等のマメ科植物の導入も考慮する必要がある。 (5)放牧地等を利用した家畜生産の再検討 トウモロコシ以外の生産物としては広大な草地を利用した家畜生産(牛肉生産)が最も有力と思われた。その理由現在の環境を生かし、費用・労力を多く必要としないで行えるためである。現在行われいる放牧方法よりも計画的な草地利用を行う、具体的には共同放牧地による家畜生産が考えられる。低地にため池を造り水飲み場とし、それを中心に放射状に牧区を設定した上で輪換放牧を行い、庇陰のためには庇陰樹を植林するといった形態が考えられる。 また養豚に関しては(2)で示したように甘藷の飼料化を考えてみる価値があると思う。技官の話では甘藷1haで豚4頭の飼育が可能とのことであった。現在行われている庭先養豚でも利用できるが、もう少し集中した施設において養豚を行えばその糞尿等が有機肥料原料として利用でき、物質循環の輪をつなげるのに役立つと思われる。 このような形で生産された牛肉等は常温保存可能な加工品にして販売することも考えられる。 (6)植林に関して この地域は全体的に樹木が少ないが、家の周りに集中している。燃料に薪を使用している家も多く、燃料用あるいは建材用に在来種であるEpilepilやJmerinaを植林しているとのことであった。(5)で述べた庇陰林や水源地での涵養林等を含め全体的な植林計画をアグロフォレストリー・システムの見地から検討する必要があると思われた。 (7)栽培情報の活用 農務省の出先機関を訪問したが、各種作物栽培に関するパンフレットが置かれていた。それを見るとトウモロコシの害虫であるアワノメイガに対する寄生バチを利用した生物的防除法など総合的防除に関する研究もかなり進んでいるようであった。しかし生産者がこのような情報を十分に活用しておらず、関連団体(NGO)が積極的に支援すべきと思われた。 (8)栽培記録の記帳 栽培記録を記帳することは有機認証取得に必要であるが、栽培技術・生産性の向上のためにも重要である。簡単に記帳できるフォーマットを作成し、各生産者または現地担当者が記入するようにすべきである。 |