メド・シップ 祖父たちの戦争
DOCTOR TO THE STARS
マレイ・ラインスター
1964
遙かなる未来、遙かなる宇宙。人類は様々な星に植民し、版図を広げていた。星間医療局のカルフーンは、宇宙動物トーマルのマーガトロイドとともに、担当の星々を4から5年に1度巡回し、現地の厚生責任者の話を聞き、公衆衛生と個人医療情報を提供する。しかし、非常事態には特別出勤を行う。とはいえ、宇宙は広い。光速を超えるオーヴァードライブ技術をもっても、数カ月かかることがある。
そして、現地では…。
カルフーンはただの医者とは呼べない。公衆衛生の専門家の枠を超え、世代間の紛争、経済侵略のための謀略の解決、世界の救済さえも行う。日本の誇るブラック・ジャックも真っ青である。もちろん、公衆衛生の専門家で、手術はしないが。
ヴァン・ヴォークトの「宇宙船ビーグル号の冒険」に出てくる、ネクシャリスト(情報総合学=ネクシャリズムの専門家)のような活躍ぶりである。
本シリーズは、短中編シリーズで、本書には3編が掲載されている。表題作「祖父たちの戦争」に、「住民消失惑星の謎」「憎悪病」である。このほか、「惑星封鎖命令」に3編、「禁断の世界」に2編が所収されている。しかし、残念ながら、私は本書を古書店で入手したのみである。
本書は、1960年代のSFだが、このころの、ジュブナイル的な作品は読んでいてほっとするところがある。宇宙を縦横無尽にかけめぐる主人公。その相棒の異星人や異星生物たち。さまざまな太陽系と、惑星の驚異。自然も生物系もいかしている。登場人物は、裏がなく、白黒はっきりしていて、動機や精神の葛藤なども素朴なものである。80年代以降の複雑かつ文学的なSF作品群に比べれば、同じページ数でも半分以下の時間と集中力で読めてしまう。荒唐無稽な宇宙ではあるが、それでも、たとえば本書では、世代間の考え方の違いの類型化や、集約化、機械化された畜産の問題、医療という権力などについてふと考えさせる力も持っている。
最近では、スティーブン・グールドの「ジャンパー」や「ワイルドサイド」が、良質のジュブナイルSFとして紹介されているが、そこに出てくる主人公は、現実と非現実の間で悩み、揺れ動き、決して代替不能なヒーローではない。良くも悪くも現代的なのである。
勧善懲悪がいいとは言わない。しかし、時に、人は最後に解決されるということが分かった状態で、すっきりと終わりを迎えるために読みたいときがあるのだ。
本シリーズのカルフーンは、超越的なヒーローではない。スーパーマンでもなければ、超能力者でもない。しかし、小型の堅牢な医療宇宙船エスクリプス20に乗り込み、マーガトロイドをおともに、ずばっと惑星の悩み事を解決するあたり、やはりヒーローなのである。
のこりの2冊も読んでみたいなあ。
(2004.08.17)