シャドウ・パペッツ

シャドウ・パペッツ
SHADOW PUPPETS
オースン・スコット・カード
2002
「エンダーズ・シャドウ」「シャドウ・オブ・ヘゲモン」に続く、「エンダーのゲーム」のサイドストーリーシリーズ第三弾である。つい先日、早川SF文庫から邦訳が出されたばかりの作品だ。このサイトではできるだけ古い作品から再読し、感想や紹介を書いているのだが、シリーズものは取り扱いが難しい。読むならば一気に読んでしまいたいが、時間の都合や、本書のように、まだシリーズとして続いているものもあるからだ。
たまには、最新作の書評もよいだろう。
本書は、2001.9.11以降に書かれた作品であり、著者自身があとがきにあたる「謝辞」の中でそのことに触れている。先のこととは言え、国際政治を舞台に据えた作品だけに、現実の国際社会のあり方が本書と関わりを持つことは否定できない。
一方で、エンダーの腹心であり、真の天才であったビーンをはじめ、「子どもたち」は少年少女の時期をすぎ、思春期を迎え、大人となりつつある。すでに大人社会の中で、戦争を指揮し、国際政治の裏舞台にいた彼らが、地球の政治、宗教、社会のリーダーとして表舞台に登場する。そのいきさつを描いたのが本書である。
おおまかに言って、中国がインド、パキスタン、タイ、ミャンマーを含むアジア大陸中南部を支配し、世界最大の勢力となっていた。イスラム諸国は、イスラエルとの関係を修復し、イスラムの宗教世界と現実世界の大統一へ向けて静かにその準備を整えつつあった。ロシアは中国を恐れながらもにらみつつあり、ヨーロッパ、アメリカは世界の中での主導的力を失いつつあった。エンダーの舞台となった異星人戦争のために生まれた汎地球政府である、覇権政府は、事実上の権力を失い、中国の拡張主義に正面切って対立するとの一点において中国を恐れる国々の支持を得ている。その微妙なバランスの中で、彼ら主人公たちが立ち回り、世界を変えるのだ。
国際政治シミュレーションゲームである。
シリーズを通しての主人公であるビーンは、成長し続ける知能と引き換えに、止まらない身体の成長と限られた寿命を持つ。その余命はあと1年か、2年か、あるいは数年か。すでに巨人となっており、同時に思春期を迎え、そばにいるペトラとの新しい関係がはじまろうとしている。一方の主人公であるヘゲモン=ロック=ピーターは、そばにいる父母との関わりを深め、新たな家族関係をむすびはじめる。このふたつの「家族」を軸に、親子関係や家族関係が語られる。
結局は、宗教と、家族と、コミュニティの話になっていく。それが、オースン・スコット・カードである。
もう慣れたけど。
もうひとつ、本書の特徴に、アメリカ社会、キリスト教世界の中にいる作者が、その視点と、「敵を知るには、愛するほどに、敵の考え方、見方、感性など敵そのものにならなければならない」という、「エンダーのゲーム」で提示された「敵への愛」をあらためて表現していることである。これもまた、現実世界への敬虔な家族人であり、宗教人でもある、作者の答えなのだろう。
ということで、前作までついてきた人ならば、読むのになんの抵抗もないだろう。複雑な国際政治もすうっと身体に入っていくに違いない。
本作だけを読むような独立した作品ではない。あくまでもシリーズの途中なのだ。この作品だけを読めばいいというおすすめはできない。「エンダー」シリーズの中で、単独で読んでもおもしろいのは、「エンダーのゲーム」と「死者の代弁者」「エンダーズ・シャドウ」の3作品だけである。あとの作品群は、やはり、どうしても、おまけなのだ。
(2004.10.26)