地球からの贈り物
A GIFT FROM EARTH
ラリイ・ニーヴン
1968
ノウンスペースシリーズの長編。
支配階級と被支配階級が確立された人類社会であるマウント・ルッキッザット星。「病院」「統治警察」という管理機構が、被支配階級を飴と鞭の政策をもってコントロールする。支配階級は、放蕩貴族と化している、臓器移植と長命技術と富を思うままに享受していた。被支配階級には、ほとんど力を持たない反政府革命勢力がいる。彼らは平等を求めて秘密結社を組織している。
そこに、地球から、彼らの権力構造、社会構造を大きく変える技術が贈られてきた。
安定していた社会が突然動乱に見舞われる。
革命の物語である。社会変革の物語である。
しかし、そんな単純な構図では、ノウンスペースシリーズとならない。
ここに特異な能力を持つ主人公が登場する。
彼が思うだけで、人々が彼のことを見えなく感じてしまう能力。
まるで目に盲点があり、いつも彼が願えば、彼の存在が盲点に隠れてしまうようなひとりの男。革命にも、社会変革にも興味はなく、自分の能力にさえ自覚しないただの男。
彼が、ノウンスペースシリーズならではの「能力者」なのだ。
そうして、この主人公の行為をめぐりながら、マウント・ルッキッザット星という特異な植民星と、その植民者たちの特異で、かつありがちな社会が淡々と描かれれる。
本書に政治的なメッセージはない。
独裁者に見える人間も、強権者に見える人間も、人間には違いないということぐらいである。いや、追いつめられた空間だからこそ、独裁者も、強権者も、革命者も、支配階級者も、被支配階級者も、中間の者たちも、常に、現状をある程度受け入れているのだ。人間のなんと柔軟なことよ、というのが、メッセージだろうか。
解説によれば、ひとつの科学技術によって社会や倫理がいとも簡単に変わるということをニーヴンは書いているのだという。なるほど、そういうものかもしれない。
しかし、結局は、リングワールド同様に、マウント・ルッキッザット星の特異な環境を楽しめばよいのだ。それが、私のラリイ・ニーヴンの読み方だ。
(2004.11.5)