マッカンドルー航宙記
THE McANDREW CHRONICLES
チャールズ・シェフィールド
1983
1978年から83年にかけて書かれた連作短編5作品をまとめたのが本書である。主人公は「わたし」ことジーニー・ローカー船長である。本書はローカー船長の一人称で語られ、それが適度な短編のテンポの良さとぴったりあって、三人称では考えにくいほどうまく作られている作品群である。彼女は、最初は地球軌道からタイタンまでの定期航路の輸送船船長として登場する。相棒として登場するのはアーサー・モートン・マッカンドルー。実は太陽系最高の頭脳との呼び名も高い天才物理学者で、1年に4カ月休みをとってはローカー船長の船に乗り込み、ささやかな技師としての手伝いをしつつ、天才ならではのブラックホール実験を行ったり、思考実験を繰り返している。
この時代、地球には100億の人口がおり(実はついこの間まで110億人だったのだが、10億人がひとりの男の狂気によって殺されたばかりなのだ)、太陽系の各地には小惑星などを利用したコロニーがあって、宇宙開発時代を迎えていた。宇宙船のエネルギーには、カーネルことカー・ニューマン・ブラックホールが使用され、それぞれの宇宙船に小さなブラックホールが管理されて搭載されていた。
2話になると、50Gであっても人間がぺしゃんこにならない宇宙船システムが実験船としてマッカンドルーにより開発され、ローカー船長は、それまでの輸送船船長から、ペンローズ宇宙研究所の実験機パイロットとしてマッカンドルーのもとで仕事をすることになる。それは、なによりもローカーのもつ「危険への敏感な経験」を買ったものだった。 ということで、作者曰く、ハードSFであり、実科学理論とSF科学理論の明確な部分を巻末に作者自ら解説を加えることでより楽しめる作品となっているとのことである。
ハードSFと聞くと、科学の知識をある程度「以上」持っていなければストーリーが理解できず、途中からちんぷんかんぷんになって、あまつさえ時には数式や公式やなにやら難しい科学理論のページが数ページ続いたりして途中で放り投げ…という方もいることだろう。
私もどちらかといえば科学理論は苦手で、それでも果敢にチャレンジしてはいつも玉砕している。だからちょっと前書きを読んで引き気味だったのだが、それほどのことでもないので安心して読んで欲しい。おもしろいから。
どうおもしろいかと言えば、なんだろう、「宇宙船スカイラーク号」(E.E.スミス)のような懐かしのスペースオペラ的な要素満載でありながら、「冷たい方程式」のように、物理ルールに則ったストーリー展開が用意されているところあたりだろうか。また、世代恒星船やオールト雲の生命などこれまでのSFのオマージュともいえるストーリーの出し方もうまい。もっと読みたいところだが、SF専業作家ではなくSFは寡作で、さらに日本ではあまり紹介されていないらしい。私もほとんど読んでいない。もったいないことだ。
(2005.8.25)