マッカンドルー航宙記 太陽レンズの彼方へ

マッカンドルー航宙記 太陽レンズの彼方へ
THE McANDREW CHRONICLES2
チャールズ・シェフィールド
2000
 2002年11月に作者シェフィールドが亡くなったそうである。そのため、本書を含む「マッカンドルー航宙記」シリーズは、本書と、前著「マッカンドルー航宙記」(1983年 創元SF文庫)の2短編集となってしまった。残念。
 2005年に15年ぶりの邦訳となった本書「太陽レンズの彼方へ」は、前短編集では収録されなかった作品及び、その後に書かれた作品をまとめたものである。もちろん、本作品も天才物理学者のマッカンドルー博士と女性でマッカンドルーとは長いつきあいの宇宙船船長ジーン・ローカーの名コンビが、いくつかの事件を引き起こし、あるいは巻き込まれていく。前作では、物理学の理論を作品にうまく組み込ませていたが、本作品では、より「ドラマ性」あるいは、「人間への興味」に重点が置かれている。ストーリーとしてのおもしろさを全面に出した作品群である。
 もちろん、SFとしてのおもしろさは抜群である。
 タイトル編ともなっている「太陽レンズの彼方へ」を取り上げてみたい。新たな超新星が誕生し、確認されたため、太陽の重力を利用した焦点位置での観測を試みたところ、その途中で、「方舟」からの救難信号を受信した。「方舟」とは、かつて小惑星を改造して太陽系を離れた移民星であり、さまざまな少数民族や少数の価値観を同じくする集団(宗教集団など)が思い思いの方向に向かっていったのである。その救難確認のために、マッカンドルー博士とローカー船長が宇宙船を出す。ところが、その「方舟」は…。
 というストーリーで、ネタバレになるが、「人工知能」ものである。さらりと「人工知能」の進化の可能性について楽しい読み物に仕立て上げているが、話のキモとなるのは「太陽レンズ」であり、人工知能の方は、ストーリー上のおまけみたいなものである。そのあたりのバランスがよい作家であった。残念。
(2005.11.19)