スタークエイク
STARQUAKE
ロバート・L・フォワード
1985
本書「スタークエイク」は、ロバート・L・フォワードのSF作家としての出世作となる「竜の卵」の続編である。続編といっても、時間軸からすれば直後にはじまり、すぐに終わってしまう。なぜかといえば、人類がはじめて遭遇した知的生命体は中性子星上に存在するチーラであり、彼らは人類と比べれば100万倍の時間軸で生きて、死んでいるからである。チーラにとって、人類は「遅い連中」であった。「竜の卵」では、チーラが知的生命体として進化するさなかに人類がはからずも果たした貢献、人類がチーラを発見して、その知的成長を手助けした時期、さらには、とうに人類を追い越し、人類に彼らの科学をある程度教え、そしてそれぞれの道を歩むために接触を断つところで終わった。
時に、2050年6月21日、6時13分54秒のことであった。
ところが…、である。
チーラはますます繁栄を極め、彼らの関心の的である他の中性子星の探検や時間操作などについての知見を深めていた。そんなとき、すなわち2050年6月21日、6時50分6秒、人類の探査船ドラゴン・スレイヤー号を中性子星の強大な潮汐力から守るための高密度補償体とのバランスを保っていたジェット装置が故障した。このままではドラゴン・スレイヤー号が破壊され、チーラと接点を保ってきた人類の探査隊がみな死んでしまう。そこで、チーラは人類を救うための手だてを講じようとしたが、彼らの官僚機構の中でなかなかうまくいかなかった。「自分も救えないような知的生命体になぜそんな多額の予算を使わなければならないのか?」というところである。
それでも、なんとかドラゴン・スレイヤー号は救われた。
しかし、その直後、6時58分7秒に、中性子星に巨大な地震が発生、それは地殻震から星の中心までを揺るがす星震(スタークエイク)にまで拡大した。そして、チーラの文明は崩壊し、中性子星上には4人のチーラと数個のチーラの卵、若干の生命が残るのみとなり、星に戻れなくなった宇宙基地と宇宙に散ったチーラの軍の探検隊のみが残るばかりとなった。宇宙基地のチーラ達は、地上の生き残った数名のチーラと接触し、彼らが中性子星上に降りられるようになるための文明再興に協力する。一方、地表のチーラは、繁殖し、教育し、文明を復興させるための長い長い歩みを再開する。幸いなことに、「遅い連中」である人類の所には、チーラが科学データを渡しているので、そのデータを送り返してもらい、足りないところを埋めていく作業もはじまった。
宇宙基地からは、チーラの文明の再興をずっと見守っていた。それは順調に見えたが、やがて皇帝が生まれ、宇宙基地との接触を保っていた種族が苦況に追い込まれる。ふたたび、宇宙基地は人類に協力を求める。しかし、それは、ドラゴン・スレイヤー号の乗組員の生命を引き替えにするものであった。そして、そして、そして。
ということで、チーラ文明の復興記なのであるが、核戦争後の地球で科学技術を守り、再興する物語である「黙示録3174年」(ウォルター・ミラー 1959)と似たような物語が一部繰り広げられたりもする。
本書「スタークエイク」の主人公は、チーラであり、ドラゴン・スレイヤー号の面々はチーラから見た状態で登場する。前作よりもよりチーラは人間くさく、その思考、行動、社会も人類そのままである。それがいいかどうかはともかく、せっかく登場した中性子星上の異星人チーラの変わった物理宇宙を堪能できることは間違いない。
(2006.3.3)