過ぎ去りし日々の光
THE LIGHT OF OTHER DAYS
アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター
2000
ISS(国際宇宙ステーション)は、老朽化したスペースシャトルと衝突したあと2010年に放棄された。宇宙開発は停滞していた。2033年、小惑星にがよもぎが発見される。同時に500年後、地球に衝突することが確認された。すでに、地球温暖化による気候変動がはじまっており、人類は不安とあきらめと、雑然とした享楽の中に生きていた。
数年後、アワワールド社社主のハイラム・パターソンはそんな時代に画期的な発明を行った。ワームホールによる遠隔地の映像情報の取得である。タイムラグなし、相手側の送信装置なし。ただ「ワームカム」装置に向かい、座標を検索し、特定し、追尾するだけ。秘密やプライバシー、かくしごと、はかりごとのすべてがこのときより無と化した。
その情報を最初にかぎつけたのがFBIであり、最初の大口顧客となったのがアメリカ政府であることは何の不思議もない。
やがて、ワームカムは人々に知られることとなり、装置は小型化し、パーソナルコンピュータのように普及していく。世界が、人類の価値観が変わっていく。
そうして、ワームホールとワームカムの技術開発はよりすすめられ、やがては「過去」を見ることが可能になっていく。時間と空間はワームホールにとっては特に差のあるものではない。未来を見ることはできなくとも、過去を見ることは可能になっていく。それもまた世界を、人類の価値観を変えるものになる。
あらゆることが観察可能になったら?
あらゆることが現在および過去に向かって観察可能になったら?
このふたつの技術的外挿と、「500年後に地球がなくなるとわかったら」という社会条件の外挿。
それが、本書「過ぎ去りし日々の光」である。
アーサー・C・クラークらしい、率直な技術の革新と社会の変化。
スティーヴン・バクスターらしい、壮大な人類の変化。
まったくの古典SFである。だから、安心して読める。そして、安心していろんなことを考えることができる。
サイバーパンクではなくても、近未来の人類の変化を書くことができるのである。
あらゆることが観察可能になったら?
あらゆることが現在および過去に向かって観察可能になったら?
さて、あなたは何を見つけに行くだろうか?
500年後、あなたが死んだ後のそう遠くない未来に地球の生態系が完全に破滅すると分かったら?
さて、あなたは何をするだろうか?
インターネットや携帯電話(情報端末)の普及による過去10年の変化と、今行っていることをふまえながら、想像してみたい。
(2008.09.08)