終わりなき戦火-老人と宇宙6
THE END OF ALL THINGS
ジョン・スコルジー
2015
老人と宇宙シリーズ6冊目は、前作「戦いの虚空」に続き、短編連作の形だけれど、今回はテレビシリーズ意識ではなく4つの作品からなっている。短編にしてあるのは、視点提示の違いからのようだ。時系列としてはひとつなのだけれど、それぞれ主人公の語り手がいて、物語をすすめていく。全体を通すのは、アン・マキャフリーの「ブレインシップ」ばりに脳だけになって宇宙船を動かすことになった操縦士のレイフ・ダクインとチャンドラー号。それ以外は、だいたいおなじみのメンバーが登場し、それぞれの立場で一生懸命働く。
6作まで読んでいないとよく分からないしたてだけれど、そもそも、地球から宇宙に進出し、植民惑星(コロニー)を形成していた人類は、異星人に出会って、コロニーを失い、それに対してコロニー防衛を目的に攻撃部隊を設立。それは地球で老人になり、死を前にした人たちを徴募し、様々な改造によって強化人間兵士に仕立て上げるものだった。強化人間たちは緑色をしていて、ものすごくよく働く。なぜ働くか。それは、兵役を終えると、自分自身の若いクローン体を手に入れることができるから。すなわち、もう一度青春を、だ。そういう設定でスタートした老人と宇宙。シリーズ後半は主人公を変えながら、様々な宇宙の勢力争いを描く。
前作、本作で描かれているのは、コンクラーベという地球種属は入っていないが宇宙での歳代勢力となる異星種族連合体。そして、コロニー連合という、主に地球種属(人類)で構成されたコンクラーベとは比べものにならない小さな勢力、そして、地球種属(人類)の母星であり、コンクラーベともコロニー連合ともつながっていない地球という惑星。さらには、別の目的をもって動き始めた「均衡」グループである。
さて、本作を読んでの感想。作者のジョン・スコルジーは希代のストーリーテーラーであり、そして、21世紀らしいアメリカSF作家である。良くも悪くもアメリカの理想のような作家かもしれない。れっきとしたミリタリーSFであり、ハインラインばりに「力=軍事力」を肯定し、力による政治の必要性を語る。戦略家であり、将軍の視点も、兵卒の視点も忘れない。一方で、民主主義を志向・信奉するアメリカ人そのものでもある。20世紀のハインラインが自由主義と軍事力による安定を志向するSF作家であったとすれば、21世紀のスコルジーは民主主義と軍事力による安定を志向しているSF作家ともいえるのではないか。
登場人物たちは、力を持つとともに、そして時にはその力を有無を言わせずに執行する一方で、どこかで民主主義を求め、その可能性に期待し、行動する。まるで民主主義という宗教があるかのように。本書はアメリカ合衆国が持つ矛盾を体現しているかのようだ。
まあ、いつものことだが、そういう難しいことを考えなくても楽しく読み進められる作品である。まずは第1作で、老人版「エンダーのゲーム」を楽しんで欲しい。そこからだ。
(2017.11.12)