TVアニメ LISTENERS

リスナーズ
2020

監督 安藤裕章 構成 佐藤大 脚本 じん、佐藤大、宮昌太朗
https://listeners.rocks/

ロック音楽をテーマ&モチーフにしたボーイミーツガールのロボットアニメ」だ。
 すごくおもしろかったけれど、対象は誰だ?という気もする。
 全12話で、1960年代~00年代のロック、しかもプログレからプリンスまでがモチーフになり、レコードジャケットで見たことのある構図の絵などが平気でどんどん出てくる作品だ。私は20代になるまでほとんど「洋楽」に縁がなく、せいぜいビートルズ、ローリングストーンズを聞くぐらいだったのだが、高校から大学にかけての友人とそのお兄さんがプログレ者だったり、高校の先輩が「プログレ友の会」なるものをつくっていたりと周りにはたしかにいた。
 そして2020年代の現在、音楽はレコード、CDといったマテリアル時代を経て配信の時代を迎え、古い楽曲が、当時生まれてもいなかった、ひょっとすると親や祖父母の時代の楽曲までも「再発見」されて突然の再ヒットする時代になっている。だから、この作品のモチーフたちも、「再発見」にふさわしく、この作品を通して「再発見」されることもあるのだろう。
 でも、私の世代、あるいは、構成した佐藤大の世代にとっては、時代そのものだったりする。

 作品の話。一言で言えば「ロックな交響詩篇エウレカセブン」だ。構成・脚本の佐藤大は、TVアニメ交響詩篇エウレカセブンの構成・脚本も手がけている。この作品は海外SF小説、音楽などをモチーフに世界と個の存在を発見していく作品なのだが、まあそれはいい。
 どちらの作品も異質な存在である少女と、世界の広さを知らない少年が出会い、世界が異質さを分断していることを知り、その分断を極めて個人的に乗り越えていこうという物語でもある。

 本作LISTENERSの世界では、人類をおびやかす「ミミナシ」という巨大な影のような生命体が存在する。ミミナシを倒すのは「イクイップメント」と呼ばれる戦闘メカで、それを操縦するのは身体にプラグを持つプレイヤーと呼ばれる特殊な能力者である。10年前の世界規模の闘いによって荒廃した街リバチェスタで姉とともに暮らす少年エコオ・レックは、世界中から集まる廃棄物から有価値品を探し出すジャンク拾いで暮らしていた。エコオは、10年前にミミナシと闘っていたジミというプレイヤーのことを鮮明に記憶し、ジャンクパーツを集めてイクイップメントのコアとなるアンプを自作するのが唯一の生きがいでもあった。そんなある日、鉄道で輸送された廃棄物の中から記憶消失のプレイヤーの少女と出会う。名を持たない彼女にミュウと名付けたその日、ミミナシがリバチェッタを襲い、エコオのアンプをミュウがプラグインしてイクイップメントを機動、闘いを始めるのであった。それはふたりの旅の始まり。ミュウが自らの正体を知る旅、エコオがミュウとジミを出会わせるために選んだ旅。その旅は、世界を再び揺り動かす旅となっていくのだった。

 エコオは、さびれた田舎で生まれ育ち、外に出て行くことも考えず/考えられず、このままジャンク拾いで一生を終えるものだと達観している。心の奥には言葉にならない何かを抱えているがそれが何かは自分でも分かっていない。ジミへの憧れ、イクイップメントへの憧れ。しかし、その憧れは「自分とは縁のないもの」として深く心の奥にしまっておくものだったのだ。
 エコオはミュウとの旅の途中で何度も自我を否定していく。ミュウに引っ張られ巡り会う人や状況に対して自分はふさわしくないと、あくまでもミュウのために付き合っているだけだと、ミュウに対しても、手の届かない言ってしまえば「お客様」のような気持ちでしかなかった。しかし、心の奥底には希望と願いが生への渇望があったのだ。
 一方のミュウは自分が何者かを知らない。そして、出会う人たちからいくつものラベルをつけられる。その中で、最初についたラベルであり、押しつけがましくないラベルである「ミュウ」のことをとても大切にしている。ミュウにとってエコオの最初のプレゼントはとても大切な思い出であるのだ。
 ということで、出会いはするけれど、恋愛にはちょっと遠い若者たちの旅の物語だ。

 それにしても声優陣がぜいたく。鍵になる老人は銀河万丈。エコオを動かすおっさんは千葉繁。田中敦子に山寺宏一まで出ている。

 この作品、元ネタについてざっくりと解説も公式でされている。非公式のファンサイトではもっとディープな解説もある。
 公式の解説はこちら。https://listeners.rocks/

 AmazonPrime ビデオで配信中とか。
(2022.2.8)