HEAVEN’S RIVER
デニス・E・テイラー
2020
しまったあああ。三部作じゃなかった。続編あるんだ。おおっと、「リングワールド」が出てきちゃった。リングワールドを旅するボブ!
人類の版図を広げるため人格を持ったAIとして2133年に地球を出発したボブ。ボブはかつて人間で、プログラム会社の社長で、SFオタクだ。肉体を失いAIプログラムとしての仮想人格になったことに順応し、ボブ自身にとって快適な仮想空間と現実世界とのアクセスを確立、ついでに自分をコピーして仲間を増やすことにした。ボブがボブをうみ、ボブ2、ボブ3、ボブ2の2、ボブ2の3となっていくとややこしいのでオリジナルAIボブ以降はそれぞれ名前をつけて分かりやすくしてきた。ある時点では同じであっても、その後の体験や状況によって行動も思考も変わっていくことになる。後に単純に並列化するというわけにはいかない。つまり、ボブとボブ2は別人格なのである。
しかし、ボブはボブ。順応性と社会性に富んだ希有な性格なので、ボブが他のボブを忌避することはない。一緒に仕事をしても大丈夫、気心の知れた関係なのだ(あたりまえだ)。しかししかし、いやしかし。コピーするのは直系のボブだけではない。ボブ2の3の2の1の2…と、約20数世代後のボブたちの中にはずいぶんボブらしくないボブも出てくる。なんといってもボブたちは1万人にもなっているのだ。最近まではボブの総会は、議論百花繚乱でも落とし所がとれたのだが、どうもそうもいかなくなってきたりする。いやあ困ったね。
困ったと言えば、ボブの初期のクローンであるベンダーが行方不明になったままだ。ベンダーは初期の古いタイプの通信手段と移動手段でエリダヌス座デルタ星系からうさぎ座ガンマ星Aをめざして旅立ち、2296年1月時点のボブにとってはベンダー行方不明から100年以上となっていた。ベンダーの方向に向けては最新の超光速通信設計図も送信しているが反応はない。超光速通信が使えれば帯域が確保できれば自身を「送る」ことだってできるのに、それもできない。調べてみたらベンダーは途中でうさぎ座イータ星系に方向転換しており、そこには巨大構造物をうかがわせる痕跡があった。さては先に邂逅した巨大な敵アザーズなのか?そのリスクもありつつも、ベンダーを探し出すためボブはしかたなく約35年かけて実際にうさぎ座イータ星系まで旅をした。そこにあったのは星系をぐるりと取り巻く円環。3つのひもがくみ上げられたようなリングワールドであった。半径90キロ、全長約16億キロメートルのシリンダー世界。
探査機を飛ばしたら攻撃されて全滅。遠隔で調査すると、そのシリンダー世界と外界との出入りはほとんどない状態であった。そこで、ボブは星系の外惑星系の外で超光速通信設備をつくり、ボブの元に集まってもらったチームとともベンダー捜索の旅をはじめるのであった。
ほとんど閉鎖系となっているその世界には川のネットワーク沿いに水陸両方を使って生きる異星種族クインラン人たちの世界だった。ボブたちは作戦をねり、クインラン人に偽装したロボットをアバターにして侵入を図る。はたしてベンダーはこの世界にいるのか。
一方、この間にボブたちの世界で起きてる騒動の顛末は!
100光年の幅があってもある程度の同時間性、コミュニケーションの双方向性を確保できるボブたちの世界で2332年11月~2334年12月までの冒険の物語。すげーや。
SF小説、映画、ドラマが大好きすぎるデニス・E・テイラーが、すべてのSFファンに送る正統なるスペースオペラの続編。スペースオペラだけど、SFとしての土台はかなりしっかりしているので安心して「遊べる」作品だ。
もう一度、やはりSF大好きなSF作家ラリイ・ニーヴンの「ノウンスペースシリーズ」の長編、短編を読みたくなるじゃないか。