映画 オデッセイ

The Martian

2015

 アンディ・ウィアーのSF「火星の人」を原作としてヒットしたリドリー・スコット監督作品である。
 なんども書いているが、私は火星ものに目がない。古くはウェルズの「宇宙戦争」にはじまり、ジョン・カーターの火星を経て、現代に近くなればなるほど火星は身近で現実感あふれる場所になっていっている。嬉しい、楽しい。
 特に1980年代以降、火星はリアルな風景となっていく。
 映画「オデッセイ」は、その原作「火星の人」をみごとに映像化した作品である。もちろん、映画だからご都合主義や突っ込みどころはある。ありますとも。マット・デイモンが演じる火星にたったひとり取り残されたマーク・ワトニー宇宙飛行士は、思いつくだけで4回か5回は死んでいるし、救出時はちょっとどころでなく臭いはずだ。まあ、それを言ったらおしまいよ。万に一つの幸運を積み重ねて生き残る。それがこの映画の醍醐味だから。「火星にたった一人」。
 ちょっと先の未来。それほど先ではない未来。NASAの有人火星探査ミッション「アレス3」は到着早々に想定外に巨大化した砂嵐に巻き込まれミッション中断を決断する。母船への帰還船に戻る途中で主人公のマーク・ワトニーは飛んできた通信アンテナにぶつかり飛ばされてしまう。指揮官は救出を考えるが時間的に無理で死亡と判断しワトニーを残して帰還船で母船に帰り、地球へと向かい始める。
 ところが、ワトニーは大けがを負ったものの生きていた。
 地球に戻るすべはないが、アレス3ミッションの基地は無事であり、残された資材、クルーの私物、食料などをもとに次のミッション到着の4年後までのサバイバルをめざす。
 母船はもちろん、地球との交信手段もなく、ただ単独で生き残るしかない。
 幸いなことにワトニーは植物学者であり、さらに幸運なことに感謝祭用に非加熱ジャガイモが真空パックで残されていた。そして、クルーの排泄物はシュリンクパックされ非加熱で残されていた。植物、腸内細菌、そして植物に必要な栄養素。基礎でありミネラルである土はある。だって惑星だもん。水と酸素は作り出せる。二酸化炭素は十分。残された食料だけでは4年間は生きられない。ワトニーは火星で初の農業をはじめることにした。ジャガイモ栽培である。
 この映画は火星映画であるとともにジャガイモ映画なのだ。
 食料、水、酸素、与圧、エネルギー、そして通信手段、移動手段。ワトニーの孤独な火星生活がはじまった。
 映画にはいろんな楽しみがある。私たちがよく知っているマーズ・パスファインダーが良い仕事をしてくれる。
 重力が地球よりやや小さく、太陽の光も少ないが人工灯火が使えるハウス環境でジャガイモはどう育つか。茎や葉は地球よりもひょろりと垂直に育つと映画では表現されている。これもまたおもしろい。
 小説でも細かくいろんなことがていねいに書かれているが、火星の風景とジャガイモの育て方については映像表現がとても楽しい。
 小説を読んで映画を見るのがおすすめだけど、映画をみておもしろいなあと思ったら、ぜひ小説も読んで欲しい。

 どうして赤い星は私をこんなに引きつけ、饒舌にさせるのだろう。