TONGUES OF SERPENTS
ナオミ・ノヴィク
2010
黒き気高きドラゴン・テメレアとその乗り手であるローレンスの旅は、ついに北半球を離れ、オーストラリア大陸へ。シドニー、そこは英国が開拓をはじめてそう長くないすさんだ開拓の町である。開拓者とは名ばかりで英国から送られてきた囚人たち。ある意味で島流し的な海兵たち、そこを取り仕切る植民地総督、あまりのひどい扱いに反旗を翻し、事実上統治しているニューサウスウェールズ軍団…。
軍籍を剥奪されたローレンスと事実上厄介者扱いされたテメレアは、ドラゴンのいない植民地にドラゴンを導入する目的と称して3つのドラゴンの卵を渡され、それを守り孵すという仕事を与えられる。送迎の警備役のドラゴンとなじみ深いドラゴン輸送船に乗ってやってきたのは、そんなシドニー。
そしてここでもいろいろあってドラゴンの卵のひとつを奪われてしまい、シドニーから大陸を縦断するはめに。広大な乾燥した大陸を、生まれたばかりのふたりの変わったドラゴンとともに旅するテメレアとローレンス。自然の中の新たな脅威、オーストラリアの先住民たち、そして意外な人物たち。ユーラシア大陸でも砂漠を経験し、アフリカ大陸でも果てのない旅を経験しているテメレアたちであるが、人が少なく、集落もほとんどないオーストラリアの地での経験はこれまでにはなかったものだった。
もちろんナポレオン戦争はまだ続いているし、大航海時代において新天地オーストラリアはヨーロッパ人にも中国人にも、そして独立して間のないアメリカ人にとっても「開拓」すべき土地である。しかしもちろんそこには先住民がいて、さまざまな暮らし方や文化を持つ民族があるのである。
軍籍はないが、軍にとっては欠かせないドラゴンの乗り手であるローレンスは、不遇の扱いを受けながら、「いま自分にできること」「いま自分がやるべきこと」「いま自分がやりたいこと」を考え、テメレアとともに行動するのであった。
主戦場から離れたことで、テメレア戦記はまた違った「戦記」となっていく。前作に続き、後半の大きなターニングポイントとなる巻であった。
それにしても、ローレンスもテメレアも休ませてくれないね。わくわくするけどちょっとかわいそうな気持ちにもなる。