竜の歌い手

DRAGONSINGER

アン・マキャフリイ
1977

 パーンの竜騎士シリーズ邦訳5作目、「竪琴師編」第2作は、前作「竜の歌」に続いて、半円海ノ城砦太守の娘であったメノリの物語である。様々な出来事の末に竪琴師ノ主工舎で竪琴師の徒弟として暮らし、修行することになったメノリ。はじめての女性の徒弟、皆が憧れる火蜥蜴を7匹も連れている惑星パーンでも特別な女性。しかも竪琴師ノ長ロビントン直属の徒弟として特別視される存在。目立つことといったらない。竪琴師ノ主工舎にも女性がいないわけではない。女人ノ長のシルビナ、厨房の料理人アブナ、女性寮の管理人である小舎ノ長のダンカといった大人の女性のほかに、各地の城砦から音楽の基礎を学びに来た女性の学生たちもいる。また、同じ徒弟として学んでいる同世代の少年、青年たちもいる。
 もともと各城砦は支配階級と労働者階級の構図が固まっており、また、各工舎は専門職のギルドとして厳格な専門性に基づく徒弟制度が確立していた。そこに突然「異物」が入ってきたのである。早速悪質ないじめや妬み、さらには竪琴師の専門家(工師)、竪琴師として各地に派遣されることも多い師補たちからも決していい顔はされない。
 メノリも自分が子どもの頃から教わってきた技術や自分がつくった歌などが果たしてこの主工舎でどのレベルのものか計りかね、不安でしょうがない。しかし、実際に各工師の試験を受けてみると、メノリが持つ技能と才能の特異な高さは誰にも疑いようのないものであった。
 ますます妬み、そねみ、いじめはひどくなっていく。
 メノリが最初に友人になったのは年下の少年で徒弟であり、いたずら者のピイマアと、厨房の下働きのカモのふたりである。かれらはメノリの火蜥蜴にあこがれ、火蜥蜴に餌をやる手伝いができるのがなにより嬉しく、とくにピイマアはメノリの才能も素直に認め、メノリの親友となっていく。しかし、メノリは、火蜥蜴の(専門家?)として、火蜥蜴の卵をもらい受け孵化と感合をいまかいまかと待ち望むロビントン師と、師補のセベルの卵の世話をやきながら、はじめての場所ではじめての専門教育を次々とこなさなければならない。やはり苦悩は終わらないのだ。しかし、前作とは違う。メノリはいまようやく心の中の頑丈な蓋を開き、希望を確信にしようとしているのだ。不安のなかから覚醒する物語なのだ。これなら前作より気持ちよく読める。
 そして同時に、「竜騎士3部作」では分からなかったパーンの人々の暮らしや社会、問題が徐々に明らかになっていく。世界が複層化してみえてくる。これがシリーズものの楽しみでもある。いいぞ、いいぞ。