アン・マキャフリイの「パーンの竜騎士」シリーズを通しで再読した。ことのおこりは2024年になってナオミ・ノヴィクの「テメレア戦記」を読み始めたからである。テメレア戦記はシリーズ6巻で翻訳がストップしていたのだが、新たな出版社で最終刊まで新訳と旧著の再版が決まったことから、読み始めたのである。これを読み始めてすぐに「パーンの竜騎士」のことを思い出し、並行して読みたくなったのだ。「パーンの竜騎士」はシリーズの前半はある程度まとめて読んでいて、その後は出版されるたびに飛び飛びで読んでいたので登場人物などのつながりをいまひとつ覚えていなかったので通し読みをしたいと長年宿題にしていたのだ。読書感想を付け始めた後、2005年8月に「竜のイルカたち」を読み、2007年8月に「竜と竪琴師」を読んでいる。どちらもすこし外伝的な要素があるので読みが浅くなっていた。今回、しっかりと「竜の挑戦」までを読んでから「竜のイルカたち」「竜と竪琴師」を読んだので、ちゃんと物語の世界に入り込むことができて、実に良かった。
「竜とイルカたち」は「竜の挑戦」と並行した時期を描いた作品で、主人公はパラダイスリバー城砦の太守となったジェイジとアラミナの息子リーディスである。彼の成長とかつて人類とともにパーンにやってきた知的種族であるイルカたちと人類との「再会」を軸に、パーンが糸胞から解放されあらたな変革期に差しかかるまでを描く。邦訳されている作品群の中ではもっとも「未来」を描いた作品でもある。
同時に、「竜のイルカたち」は「竜の挑戦」という物語の中心軸に対して、市井の人々や周辺を描くことで読者にパーン世界の色彩を深めていく役割を担う。
これは「竜の貴婦人」と「ネリルカ物語」が前者は太守や竜騎士といったパーンの世界を動かす中心的な人たちを軸に物語を描いたのに対し、後者が同時期の市井の人々を描いたのと同じような位置づけの作品とも言えよう。
さて「竜の挑戦」ではきわめて大きなエピソードとして竪琴師ノ長ロビントンの死が描かれる。「竜の戦士」にはじまる本筋の物語の中で回を重ねることにロビントンの存在感はとても大きくなる。その死は、ひとつの時代の終わり、新たな時代のはじまりを予感させるものともなった。「竜とイルカたち」では違うサイドからロビントンの死とその後が描かれる。
一方、「竜と竪琴師」は、ロビントンの誕生から彼が竪琴師ノ長になるまでが描かれる。それは「竜の戦士」の直前までを描く作品であり、本筋の時代を動かす太守たち、竜騎士たちなどの登場人物の若き日やその交流が描かれる。作品としては、本筋の時代よりはるか昔を描いた「竜の夜明け」「竜の貴婦人」「ネリルカ物語」はあるが、本筋としては「竜の竪琴師」がはじまりの物語とも言える。それは糸胞の襲来が伝説になっていた平和な時代の物語でもあった。
そして、ロビントンを主軸として捉え直すことで「パーンの竜騎士」はファンタジーからSFへと姿を変化するのである。
それでも、読むならば「竜の戦士」からの三部作を先に読み、続いて「竪琴師」の三部作、「モレタ」の二部作、「竜の夜明け」をはさんでの「竜の反逆者」からの三部作、最後に「竜の竪琴師」という順番で読むことをお勧めしたい。
「パーンの竜騎士」シリーズは、未訳の作品や息子との共作のシリーズもあるようだが、たぶんこれらは翻訳されることはないのだろう。読みたい気もするが、この邦訳シリーズはなかなかいいところまでやってくれたと思う。うれしいね。
竜の戦士 (Dragonflight 1968)
竜の探索 (Dragonquest 1970)
竜の歌 (Dragonsong 1976)
竜の歌い手 (Dragonsinger 1977)
白い竜 (The White Dragon 1978)
竜の太鼓 (Dragondrums 1979)
竜の貴婦人 (Moreta: Dragonlady of Pern 1983)
ネリルカ物語 (Nerilka’s Story 1986)
竜の夜明け (Dragonsdawn 1988)
竜の反逆者 (The Renegades of Pern 1989)
竜の挑戦 (All the Weyrs of Pern 1991)
竜とイルカたち (The Dolphins of Pern 1994)
竜と竪琴師 (The Masterharper of Pern 1998)