地球の長い午後
HOTHOUSE
ブライアン・W・オールディス
1962
オールディスはイギリスの作家である。イギリスでは「温室HOTHOUSE」という原題だったが、アメリカでのペーパーバックでは、「THE LONG AFTERNOON OF EARTH」となっていて、これを直訳したのが邦題になっている。美しい邦題である。
たしか中学の終わりか高校に入った頃に本書を読んでいる。以来読んでいなかったのだが、私の頭の中では、人間の若く美しい女が主人公で、緑色をした植物と融合した人間と、巨大な林檎のような中に暮らしていて、その実をまるで芋虫のように食べながら過ごし、やがてこの緑色の植物人間が何かのきっかけで悲しむ女を慰めているうちに、そのままセックスにいたるというシーンがあったと記憶していた。
そして、異星人が地球の生命の収穫に来るのだ。
違った。
たしかに、緑色の植物人間が悲しむ女を慰めているうちに調子にのってセックスにいたるシーンはある。しかし、林檎の実の中ではない。主要人物だが、主人公でもない。異星人なんて出てきやしない。
ありゃあ。記憶の罠である。
とにかく、変な名前の変な植物がたくさんでてくる。動物がほとんどいなくなった世界で動くことを覚えた植物である。中でも、人間や他の植物、動物にとりついて、知性を使ってそれらをコントロールするアミガサタケには圧倒される。
いろんな漫画や小説にオマージュされている。
どうして、私はこちらを覚えていないのだろう。
若かったからな。なんかセックス的なものに心が奪われていたのだろう。
アミガサタケは、その後、本書を離れ、知能や身体能力を強化する「外套」として、いろんなSFに登場していくこととなる。
もちろん、人体に融合して乗っ取る生命体というのは、それ以前にもあったことだろうが、このアミガサタケほど印象深いものはなかなかいない。それは、本書に出てくる世界の中でアミガサタケの存在感が生きているということでもある。
ツナワタリ、ダンマリ、ヒツボ、スナタコ、ジゴクヤナギ、アシタカ…そして、ハガネシロアリ、トラバチ、ポンポン、トンガリ、ウミツキ、それぞれが奇妙で、それでいていてもおかしくない説得力を持っている。そんな世界だからこそ、アミガサタケは本書を超えて生きているのだ。
地球の自転が止まっていて地球の片面だけが熱っしているのに、気候が比較的安定しているとか、設定の不思議さは忘れよう。
本書は、一級のファンタジーであり、人間の想像力の豊かさを示す好例なのだから。
ちなみに、椎名誠が1980年代の終わりに書き、1990年の日本SF大賞作となった「アド・バード」は、本書のオマージュである。こちらを読んで楽しんだ方は、ぜひ、オリジナルである「地球の長い午後」を一読されることをおすすめする。おもしろいよ。
ヒューゴー賞受賞
(2004.4.11)