スター・ウィルス
THE STAR VIRUS
バリントン・J・ベイリー
1970
イギリス人作家バリントン・J・ベイリーの処女長編であり、あとがき解説によれば本家イギリスでも、ヨーロッパでもアメリカでも、再版されたことのない作品だという。
タイトルはすごい。スター・ウィルス、宇宙のウイルスである。さて、宇宙のウイルスとは何か、となると、ちょっとオチとからんでくるのでここでは言いにくい。
登場するのは新興の宇宙種属となった人類と、人類の台頭まで宇宙唯一の宇宙航行種属であったストリールである。まったく異種であるストリールと人類は、小競り合いを続けながらもなんとか均衡を保っていた。宇宙海賊の首領であり、科学的思索にふけるのを趣味とするロドロン・チャンがストリールはたまたま別の人類グループが入手した「レンズ」の所有をめぐってストリールが引き渡しを要求していることを知る。そして、この強奪を図ったのだ。
ストリールは、ロドロンに対して、法外な提案をしてまで買い取ろうとするが、ロドロンは、ストリールの執着に、かえって「レンズ」の秘密に思いをめぐらせてしまう。なにか、自分の科学的な思索では到達できない宇宙の秘密が得られるのではないだろうか?
そうして、ストリールとロドロンの追いかけっこがはじまった。
そんな話である。
宇宙海賊、異種種属の貴重な宝である「レンズ」、そして、タイトルの「スター・ウィルス」とくれば、何かありそうである。
そこはそれ、イギリス人作家である。
ただの大冒険活劇にはしてくれない。
そこはそれ、ベイリーである。
小さなふつうの冒険譚がいつの間にか、宇宙の根源的秘密にまでたどり着くのがお得意の作家である。
オチがちょいと近いのだが、光瀬龍の、または、光瀬龍原作・萩尾望都作品の「百億の昼と千億の夜」を思わせんばかりの「宇宙の秘密」が登場する。
そんなこんなで、宇宙活劇なのか、宇宙の秘密に迫る思弁的作品なのか、読み手も困ってしまうのだが、ベイリーらしいといえば、ベイリーらしい作品である。
(2006.09.01)