NERILKA’S STORY
アン・マキャフリイ
1986
パーンの竜騎士シリーズ外伝3として邦訳された「ネリルカ物語」である。竜騎士でありフォート大巌洞の洞母であるモレタの飛翔を描いた「竜の貴婦人」と対となる作品である。いや、むしろ「竜の貴婦人」の長い長い物語は「ネリルカ物語」を読ませるためにあったのか、と思わせるような珠玉の作品である。
本書の主人公ネリルカは竜騎士ではない。伝統あるフォート城砦の太守トロカンプのたくさんいる娘の一人である。背は高く、身体はしっかりとし、薬草集めや家の様々なことをこなすが、時には自立心ゆえにトロカンプ太守にたてつくこともあり、容姿にめぐまれているとはいえないこともあって、娘の中では不遇の暮らしをしていた。ネリルカは城砦の下働きの人たちとともに働くのは苦ではないが、適齢期でもあり、はやくフォート城砦を出たいと思っていたが、一度定められた婚約者との結婚も破談となり、出るすべを失っていた。そして、「竜の貴婦人」で描かれたパンデミックの引き金となる祭りに参加することも父トロカンプ太守に止められ、その結果、彼女は感染することなく生き残るのであった。
そして、ネリルカの目でモレタの物語では語られなかった人々の日常の苦難、パンデミックを生き抜こうとする人々の努力が、ネリルカ自身の行動も含めて語られていくのである。それはネリルカがネリルカそのものとして生きる道を探す旅ともなる。女性ならではの苦難のなかでネリルカは戦い続けるのだ。それは武器を取る戦いではないが、まさしく生きるための、そして人々を生かすための戦いだったのだ。
この物語で竜や竜騎士、パーンの世界はネリルカを焦点とした自然な背景に変わる。
なぜならば、これは現代の女性の物語、人間の物語でもあるからだ。
力強い物語がここにある。
パーンの竜騎士の世界を読んできて、実に良かった。