ALL THE WEYRS OF PERN
アン・マキャフリイ
1991
クライマックスで泣いちゃった。2500年余の物語の大団円の余韻が心に残る。
パーンの竜騎士シリーズは、ここにひとつの幕を閉じる。「竜の戦士」ではじまった本編シリーズは、その前史である「竜の夜明け」や「竜の戦士」の時代には伝説となっている「竜の貴婦人」「ネリルカ物語」など時をさかのぼっては、惑星パーンの世界の姿を明らかにしていったのだが、ここに大きな時の円環が閉じるのだ。
それは、SF色のあるファンタジーとしてはじまった物語が、本格的なSF作品と転化する、読者にとっては思ってもいない長い旅路でもあった。
「パーンの竜騎士」シリーズは、2500年余の時代のどこであっても「糸胞」との戦いが根幹にある。「竜」があまり表に出てこない作品でも「糸胞」は常につきまとうのだ。
糸胞の正体をつきとめ、叶うならば糸胞を壊滅し、その脅威を本当になくしてしまいたい。それこそが登場人物たちほぼすべての願いであったろう。第二作「竜の探索」では、フーノルが自身の生命を賭けて、その可能性に挑戦している。
しかし、2500年余の時は人々から科学技術と知識を奪ってしまった。そもそもパーンに入植した人たちは星間の紛争とそれを背景とする高度な管理社会システムに嫌気を持ち、農耕と手工業中心の素朴な社会形成をめざしてきた人たちである。意図した方向ではなかったかも知れないが、結果的にできた社会は農耕と手工業中心の中世のような社会であった。
400年の糸胞襲来休止期間を経て、ふたたび糸胞が襲来する。400年の休止期間も単なる停滞ではなく社会は変化してきた。2500年あれば、言葉さえ変わるのだから。
人工知能音声応答装置アイヴァスは、南の大陸から入植者たちが北の大陸に向けて緊急避難し人々との接触が断たれ、火山灰で太陽発電パネルが不安定になって以来、最低限の維持レベルで機能していた。2525年後、自然の風や野生動物ではなく、明らかに太陽発電パネルの土砂を払いのける動きを察知、人々が生きて南の大陸に戻ってきた可能性を判断し、機能を復活させた。
アイヴァスに最後に与えられた指令は、糸胞からパーンを守る方法を探索すること。アイヴァスはその方法を検討したが、報告する人々はいなくなってしまった。
アイヴァスは、生き延びた人たちに期待した。まずは2500年の歴史を知り、彼らの技術レベルを把握しなければ。しかし、パーンの入植目的をはずれるような科学技術や先進工業を無条件に伝え、形成された社会を破壊してはいけない。アイヴァスは「使命」と「目的」に忠実な高度な人工知能だったのである。
フルキャストの登場である。まずはもちろん、パーンのすべての階層の人たちから愛され、信頼され、あまつさえアイヴァスにも、竜や火蜥蜴たちからも信頼されている前竪琴師ノ長ロビントン老。その元で、竪琴師ノ長となったセベル、天賦の音楽的才能を持ちながら苦難の末に竪琴師となったメノリ、南ノ大陸をひとり探査した竪琴師補ピイマア。竜騎士といえばベンデン大巌洞ノ統領フーラル、ベンデン大巌洞ノ洞母レサ。ルアサ城砦ノ太守にしてルースの竜騎士であるジャクソム。さらには鍛冶師ノ長ファンダレル。グロギ太守、ララド太守、アスジナル太守、療法師ノ長オルダイブ、療法師シャアラ、鍛冶師ジャンシス…。
みんなそれぞれの個性で大活躍である。
これまで主人公を張っていたフーラル、レサ、ロビントン、ジャクソム、ピイマア、メノリの活躍ぶりったらない。
太守としても、竜騎士としてもはみだしっこに見られていたジャクソムの成長と白い竜ルースがすごくがんばる。そして、老境を迎えながらも好奇心を失うことなく、最高の宝箱を前にして誰よりも生き生きとしてきたロビントンもがんばる。もう、このふたりとツンデレにしかみえないアイヴァスとのやりとりはいつまでもいつまでも読み続けていたい。
こんな抑制的な人工知能、あっていいわけ?
物語としては、中世社会に突然高度な科学技術文明の遺跡が発見され、しかも、それが稼働する人工知能であり、その人工知能の指導を受けながら、遺跡である科学技術を復興させ人工知能にとっても中世社会の人々にとっても共通の敵である存在と戦うというものである。このパターンそのものはSFではよく見られるもので、「過去」に「現在」の科学技術がタイムスリップ等でもたらされるパターン、「現在」に「未来や外宇宙の先進文明」から科学技術がもたらされるパターンなどがある。そういう点では、とてもオーソドックスな物語展開なのだが、「竜の戦士」にはじまる本編の流れと、その過去を示す「竜の夜明け」などを踏まえての物語なので、スケールの壮大さが違うね。そこがアン・マキャフリイのすごいところだ。登場人物が多いから、初巻から一気に読むのがいい。
今回まとめて読んですっきりしたもの。
ファンタジーファンも、異世界ファンも、ドラゴンファンも、タイムトラベルファンも、植民星ファンも、人工知能ファンも、あらゆる層におすすめしたい。最初から全部読んで。まとめてシリーズで読んで。