反逆者の月2 帝国の遺産

反逆者の月2 帝国の遺産
THE ARMAGEDDON INGERITANCE
デイヴィッド・ウェーバー
1993
 のっけから前作のネタバレになるので恐縮だが、地球のアメリカの一少佐から地球総督にして帝国艦隊戦列艦ダハクの館長となったコリン・マッキンタイア先任大佐は、まもなく来たる銀河規模の生命殲滅侵略に対し、地球人類を守るため、地球人類の祖先である第四帝国の主力軍の力を借りるべく、人類が「月」として知っている戦列艦ダハクを前線基地に向かわせた。その間、地球では、人類社会の統合と防衛のためにこれまで秘されていた帝国技術による軍事化が進められていた。敵の偵察部隊であっても地球や太陽系ぐらいを破壊するのは豆腐をハンマーで叩きつぶすぐらい簡単なことである。コリンたちが助けを連れて戻ってくるまでなんとか地球を防衛したい。そのために地球を要塞化するのである。
 しかし!!!! 5万年の歳月は、帝国そのものを大きく変えるだけの時間でもあった。前線基地に人影はなく、さらに「帝国」ではなく「皇国」になっていたようである。一体何が起こったのか? そして、大侵略を防ぐ力を地球に連れて帰ることができるのか?
 コリンの、そして、地球に残された人々の闘いが、今、はじまる。
 どーん。
 やっぱりペリー・ローダンだよなあ。
 とにかく、ばかばかしくおかしい壮大なスペースオペラである。小惑星規模の戦艦は当たり前、それが数十ではなく、数百でもなく、数万、数百万オーダーで襲ってくるのだ。まあ、宇宙はどうなってしまうのやら、ってなもんだあ。
 軍事作戦大好きSFでもあり、大きいことはいいことだSFでもある。
 銀河帝国ですもの。
 さあ、三部作の最後はどうまとめるかな、楽しみ。
(2008.02.01)

スター・ゲート

スター・ゲート
STAR GATE
アンドレ・ノートン
1958
 惑星ゴースは、人類型のゴース人が自らの文明、文化を開き、暮らしていた。そこに、いつか宇宙船に乗った地球人がやってきて、彼らの高度な科学技術の一部を与えゴース人の世界を変えていった。地球人たちはゴース人から星貴族と呼ばれていたが、なかにはゴース人と結婚し、子をなす地球人もいた。物語は、ほとんどの星貴族が彼らが乗ってきた宇宙船で帰ってしまった直後に幕を開ける。地球人たちは、いくつもの人類居住型惑星にたどり着いていたが、あるとき異星文化、文明に、その異星人たちの科学技術よりも発展した技術などを導入することで社会を大きく変えてしまうことは罪悪であるという価値観が広がったのである。すでに社会が変質してしまい、地球人と共存していたゴース人たちにとっては途方に暮れるような事態が訪れた。
 ここに主人公のキンカーが登場する。彼は、田舎の荘園主の後継者であり、荘園主の祖父はすでに死の床にあった。キンカーの両親は早くに死に、祖父が生きている今はキンカーの叔父が事実上領地を仕切っていた。地球人がいなくなったあとのゴースは混乱し、戦乱が起きていた。その影響はキンカーの荘園にも訪れており、叔父は明らかに正当な後継者であるキンカーの権利を侵そうとしていた。死の床にあった祖父はキンカーを呼び出して告げる。「おまえは、地球人との間の混血である」と。もし、混乱期でなければ、それは問題にならなかったであろう。しかし、混乱した今、混血であるキンカーはその正当性を疑われ、領地内に混乱をもたらすかも知れない。叔父はそれを知って、キンカーと争ってでも領地を奪う気でいるらしい。キンカーは祖父の命により、争いを避けるため、伝説の秘石を引き継ぎ、彼の忠実な友である猛禽類のヴォークンと、使役獣であるシムとともに領地をひとり離れたのであった。行き先は、ゴースにわずかに残った地球人と混血たちにかけられた招集場所である。  残った地球人たちは、あまりにもゴースになじんでしまったため惑星を離れることはできず、しかし、このまま「この」ゴースに留まることもできないため、スター・ゲートを作って、パラレルワールドのゴースを目指すことにしたのであった。
 キンカーは、この星貴族たちと運命をともにすることにした。しかし、降り立った「次の」ゴースには大きな問題があったのである。
 タイトルは「星の門」なのであるが、舞台は「惑星ゴース」とそのパラレルワールドである。ジャンルとしては「平行宇宙」ものなのだが、ストーリーの背景には、混血が可能なほどの類似した人類型種属がいくつもの星系でそれぞれの文明・文化を生んでいることや、地球人が先進人類として異星人に影響を与えることの是非などが問われている。テーマとしては「異文化の出会いと文明導入による課題」であり、文化人類学的な課題である。
 とはいえ、話はジュブナイルみたいなものである。なんといっても作家はアンドレ・ノートンなのだ。少年少女たちをわくわくさせるのが趣味みたいな作家である。本書「スター・ゲート」は安心して読める少年の成長を描いたエンターテイメント作品である。
 表紙や挿絵は岡野玲子が書いている。それをみると、中世的ファンタジーという感じでもある。
(2008.1.31)

コラプシウム

コラプシウム
THE COLLAPSIUM
ウィル・マッカーシイ
2000
 読み損ねていたが、読んでみたらとてもおもしろかった。どうして読み損ねていたかと言えば、表紙と裏表紙の釣り書きである。こちらがおじさんだから、どうにも最近のハヤカワ文庫SFの表紙についていけないことが多い。釣り書きを読んだら、表紙に描かれた髪の毛が赤く、光線銃のようなものを持った美少女が「捜査局長」で、科学者とともに難事件を解決するのかなあ…と思ってしまったのであった。なんだかなあ…、気がそそらないなあ。捜査物だと、「アークエンジェル・プロトコル」(ライダ・モアハウス 2001)のことを思い出して、ちょっと手が伸びなかったのだ。反省。
 私好みの作品でした。
 まず、ハードSFです。思いっきりハードで、はっきりいってそこに書かれている物理理論が、すでに科学的に提唱されている理論なのか、それとも作者が作り出した理論なのかさえわかりませんでした。それでも、しっかりと楽しく読み込ませるところがいい。
 なんというか、分かったような気になるというか、壮大な気分に引き込んでくれるというか、そのあたりのさじ加減が実にいい。
 次に、登場人物がいい。
 ベースは、「マッカンドルー航宙記」(チャールズ・シェフィールド 1983)のマッカンドルーそっくりである。天才で、変人。宇宙的な危機を、その天才的なひらめきで解決するあたりや、自分が行動してしまうあたりが実にいい。
 さらに、設定がいい。
 太陽系は女王国となっており、人々は事実上の不死とどこでもドアの時代を迎えたばかりである。これらのほぼすべては、主人公ブルーノ・デ・トワジ配偶極士の発明を基礎としている。ブルーノは、発明によって太陽系随一の資産家となり、その功績を持って女王のふたり目の寵愛者となり、すべての人々に注目されたため、やがて研究を目的に太陽系辺境に小さな小さな惑星を所有し、自ら太陽と月をつくりひとり隠棲していた。
 しかし、太陽系の危機に際し、女王からの要請によってその危機を解決していく。孤独を愛しながらも、時に人恋しくなり、研究に命をかけながらも、自らの心のありように悩む複雑かつ愛すべき人物こそが、ブルーノである。
 離れたと言っても女王を心から愛し、人々を愛するブルーノが迎えた、太陽系最大の危機。波乱に満ちた冒険の数々。登場するサブキャラクターの個性豊かな属性。ひとりとして、真に悪者はおらず、悲惨なできごとも物語として心の中に整理することができる展開。
 くだんの美少女捜査局長も、そのひとりに過ぎない。
 新たな科学的知見と科学技術によって、世界が変わり始めたときを描いたとてもなじみよいハードSFであり、スペースオペラでもある。
 本書「コラプシウム」の雰囲気としては、同時期に発表された「ノービットの冒険 ゆきて帰りし物語」(パット・マーフィー 1999)のような風情もある。こちらは「ホビットの冒険」(トルーキン)の設定をそのまま宇宙に移したものであるが、本書「コラプシウム」は、さらに同じトルーキンの「指輪物語」的な風情も入っている。白の科学者と黒の科学者の間の緊張感とか、最後には指輪まで出てくるし…。
 ちなみに、本書「コラプシウム」のコラプシウムとは、「ニューブル質量ブラックホールから作られる菱面体結晶」でブルーノの発明。これを使ったコラプシターは即時通信装置みたいなもの。
 そのほか、主要なテクノロジーとして、ウェルストーンがあり、こちらは「自然物、人工物、理論上の物質をエミュレートできる」、つまりは、プログラマブルな物質ということ。一枚のウェルストーン壁がドアになったりガラスになったり、鉄になったり、コンピュータになったりということ。
 もうひとつが、ファックス。こちらは「貯蔵してある、または転送されたデータ・パターンをもとに、物理的実体を再生産する機器」ということで、コラプシターと組み合わせて、人間や物質のどこでもドア的転送ができるということになる。さらに、このファックスの過程で、病気や身体の不具合を再調整することが可能であり、それにより事実上の不死が達成された、ということ。
 これらのテクノロジーが、太陽系に大きな変革をもたらし、新たな事件を起こすことになる。
 とにかく、本書「コラプシウム」は、ハードSFとしても、スペースオペラとしても、それから、ひとつの物語としても、おもしろい。
(2008.01.24)

略奪都市の黄金

略奪都市の黄金
PREDATOR’S GOLD
フィリップ・リーヴ
2003
「移動都市」シリーズ続編である。人類が核とウイルスによる短時間の戦争によって壊滅した後1000年後、一部の人々は、自らの地に根付き、多くの人々は都市ごと移動を開始した。巨大な都市が荒廃した地球上を疾走し、その上で人は生まれ、育ち、そして死んでいく。移動都市は資源とエネルギーを求めて他の移動都市を狩り、食っていた。
 移動都市ロンドンに生まれ育ったトムは、荒野で育ったへスターと出会い、今やふたりは飛行船に乗って交易商として暮らしていた。顔に傷をもつへスターの心配は、いつかトムを失うこと。今はふたりきりだからトムはへスターを愛してくれているが、もし、もっと楽しいこと、美しい娘が出てくれば、トムは船を捨て、別の移動都市で暮らそうとするに違いない。何よりトムは移動都市育ちだから…。
 そんな不安通りに、トムとへスターは新たなトラブルに巻き込まれ、移動都市アンカレジに降り立つこととなった。移動都市アンカレジは、疫病で多くの人員を失い、今や幽霊都市のようなありさま。そこを指揮するのは若き美少女の辺境伯フレイア。略奪都市に追われ、不毛の地アメリカ大陸に最後の望みをつないで大氷原に針路をとったフレイアにとって、空から降ってわいたような若きトムはかっこうの恋愛対象であった。トムも、歴史ある移動都市に降り立ったことで、郷愁を覚えていき、しだいにフレイアと過ごす時間も長くなっていく。へスターにとっての悪夢であった。そこでへスターは一計を案じるが、それが世界の変革につながっていくとは当のへスターも思いもよらぬことであったろう。へスターにとってはトムを取り戻したい一心だったのだから。
 人生とは、世界とはそういうものである。
 本書「略奪都市の黄金」は、前作「移動都市」から2年後、主人公も同じトムとへスターである。「めでたし、めでたし」から2年。心優しきトムのせいなのか、へスターとの関係はすこぶる良好というところからはじまる。まさしく、ジュブナイルの王道である。
 移動都市ロンドンとは違って、人数の少ない移動都市アンカレジでは、人間関係もシンプル。トム、へスター、フレイアの奇妙な三角関係に、さらに、謎の幽霊の淡い恋も加わっての四角関係が加わって移動都市アンカレジはてんやわんや。
 もちろん、前作同様本書「略奪都市の黄金」では、世界の秘密が少しずつ明らかになっていく。移動都市と反移動都市同盟の関係に加え、反移動都市同盟内の争い、失われた技術や失われたアメリカ大陸に潜む秘密など、設定のおもしろさが物語をもり立てる。
 骨肉の争いに満ちた世界を逃れ、移動都市アンカレジがたどり着くのは、詐欺師のような作家が書いた荒唐無稽な空想の世界なのか、水も緑もない不毛の大地なのか、それとも、1000年の時を経て復活した緑あふれる新たな土地なのか? トムとへスターはどこにいくのか。「移動都市」という圧倒的な新機軸で展開される本シリーズ、続編の翻訳が楽しみである。
(2008.01.05)

銀河北極

銀河北極
GALACTIC NORTH and DIAMOND DOGS, TURQUOISE DAYS
アレステア・レナルズ
2002,2006
「レヴェレーション・スペース1 火星の長城」に続くアレステア・レナルズの短編集「銀河北極」である。中編集「DIAMOND DOGS, TURQUOISE DAYS」(2002)と短編集「GALACTIC NORTH」(2006)を日本で時系列的に合わせて「啓示空間」「カズムシティ」と同じレヴェレーションシリーズの集大成として翻訳出版された中短編集である。
連接脳派、ウルトラ属、無政府民主主義者といった人類3種属だけでなく、これまでのシリーズで登場したパターンジャグラーやハイパー豚、デニズン、ハマドライアドなど様々な知的/非知的生命体が登場し、最後は既知宇宙の終わりにまでたどり着くという作品群。長大長編「啓示空間」「カズムシティ」を読み切っていたゆえに楽しめるところもあるが、この2作品を読んでいなくてももちろんおもしろく読める作品たちである。
 レナルズは、短ければ短いほどおもしろい。
 短編を読めば分かるのだが、レナルズの作品の落ちは辛辣である。イギリス人らしいブラックユーモアで笑えるんだか笑えないんだか分からない。短編を読んでみると、長編も同じような気持ちで書いているのだと思う。ふりの長い短編のようなものなのだ。それにつきあうイギリス人はすごい。
 私は、パターンジャグラーが好きである。スタニスワフ・レムの「ソラリス」そのままである。そういう不定形でありながら、生態系全体をひとつの生きものとして存在しひらひらしたはかない生きものはいい。
(2007.12.30)