アルテミス

アルテミス
アンディ・ウィアー
ARTEMIS A Novel
2017
 2017年の海外SFを2018年頭には読めちゃえる時代。リンリン。
 舞台は月。時代は、ちょいと未来。月には月面都市アルテミスがあって、最初のドームシティのアームストロングを取り囲むように、オルドリン、コンラッド、ビーン、シェパードのドームシティができている。人口2000人。主要産業、観光。主要観光地、アポロ11号ビジターセンター。エネルギーは、2つの核反応炉でまかない、その電力でアルミニウムの精錬と、酸素の供給が行われている。アルミニウムの精錬原料は月の石。運営しているのはケニア・スペース・コーポレーション。ケニア政府が設立した複合企業体。通貨単位はスラグ。交換レートは地球からアルテミスへ1g運ぶ=1スラグ。単純明快。
「月は無慈悲な夜の女王」「月は地獄だ」「酸素男爵」
 月には大気がない。月の重力は地球の6分の1。近いけど遠い。遠いけれど近い。なにもないけれど、低重力はある。衛星には岩石など物質がいろんな形で存在している。宇宙の窓口。自然がつくった宇宙への階段の一歩。玄関口。
 1969年に人類ははじめて月に足跡を残した。アポロ11号。
 私は4歳。
 ずいぶんと長いこと、人は月に行っていない。月は変わらず、地球の周りにいる。
 2000人のうちのひとりが主人公。ジャズ・バシャラ。女性で、一般庶民で、何かやらかしかねないと目を付けられていて、技術職の父親と離反して、ひとりで、下層民として、ポーターをやりながら、EVA(ドーム外活動)のライセンスを取り、観光客相手にお金を稼ぎたいと心から思っている。お酒は好きです。お金は目標額があります。文通相手が地球にひとりいます。
 お金を稼ぐのに必要なのは知恵と勇気と策略と。小さな仕事で信頼を得たところで、ちょっと大きすぎる仕事を頼まれて、お金に釣られて引き受けて、そうしてアルテミスをゆるがす大事件に巻き込まれてしまう。
 もともと天才的な理解力と交渉力、それに加え、父親から厳しくしつけられた手仕事の段取りと技能はジャスを助け、裏切り、そして、成長させる。
 ストーリーのパターンは、「火星の人」と似たような感じ。できそうにないことを、ちゃんと科学的なつみあげと知恵と勇気で解決しようとする。本来的に明るく、前向きで、怖れず、立ち向かう力を持っている。ときにはくじけるけど、本当にはへこたれない。
 安心して読めます。
 ところで、この文章では、である調とですます調がまざっていて、書いていてもちょっと気持ち悪いのだけど、本書は、なぜか、(ルールはあるけど)これが混在しているので、読んでいて気持ち悪い。
 後書きで解説者が、翻訳が読みやすいと絶賛している。読みやすいですか?私はつらいです。原文を読んでいないので、必然性があるのかどうかも分からないし、最近のライトノベルなどの文体を知らないので、そういうのが普通になったのかとも思うけれど。すいません、慣れませんでした。
 でも一読の価値あり。夜更けまで読んじゃったもの。
 そうそう、労働者層が日常的に食べているのは月で培養された藻を乾燥させて味付けたもの。げろまず。
(2018.4.1)