幻影への脱出
THE DREAMING EARTH
ジョン・ブラナー
1963
初読。半世紀以上前の作品。1961年に雑誌掲載された長篇で、21世紀、85億人の人口爆発を迎えた地球が舞台。設定された時期は、うーん、たぶん2018年の今と同じ頃かな。もう少し前かも。
人口爆発により、食料、エネルギーなどが不足、都市は過密となり、分配の問題が大きくなる。国の機能は失われ、国連が世界の資源分配の役割を担うことに。だから、FAOやWHOなどが頻繁に出てくる。主要な登場人物は、国連所属の麻薬捜査官や研究者たち。そして、国連職員は特権階級であるとともに、世界中の一般の人たちから嫌われる疫病神であり、取り締まる役人である。物がない時代。甘い物も、娯楽も、まっとうに動く機械も失われていく時代。人々は、虚無感にかられている。そこに登場したのが、麻薬ハッピー・ドリーム。世界中の若い人たちに急速に広がっているのに、売人を捕まえることも、販売ルートを見つけることもできない。初回5ドル、次からは2ドル。売価も安く流され、それ以上になることもない。違法ではないと言う者たちもいる。しかし、多用すると、ある日、常習者は忽然と姿を消してしまう。理由もなく、跡形もなく。どこに消えるのか?人口爆発によりすでに住民記録も当てにならなくなっていたので、見つけることもできない。
物語は、麻薬捜査官グレイヴィルを中心に進む。結婚6年目で妻には逃げられ、任務に追われ、トラブルに巻き込まれるなかで、ハッピー・ドリームの謎を追い詰めていく。いや、追い詰めていかないのだ。たんに巻き込まれながら、ハッピー・ドリームの謎を考え続けていく。
出てくるガジェットは、1960年代だから、大型のコンピュータ、電話交換つきのテレビ電話、ガソリン自動車、なのに、ジェット機はマッハ5、自宅では食事が取り寄せられるサービス…、今から考えればちぐはぐだけど、当時の作品としては、ダークな未来としてまっとうな感じに読めるのだろう。ちなみに日本で翻訳発行されたのは1971年。その当時に読めば、違和感はないはず。それを除けば、良くできたSFサスペンス作品。
85億人にはなっていないけれど、70億人を超え、食料はぎりぎり足りていて、格差は拡大し、分配はうまくいっていなくて、国連は手足を縛られたまま。もちろん、ハッピー・ドリームはなくて、麻薬は蔓延したまま。本書と共通なのは、タバコが廃れていこうとしているところかな。
あ、そうそう、神経系を持つ動物にとっての「世界の認知」がものがたりの鍵だ!
そう考えると、割と新しい感じのSFかもしれない。
2018.9.15