BONE SHAKER
シェリー・プリースト
2009
3年ほど前に結婚してシアトルに移り住んだ著者シェリー・プリーストが19世紀のシアトルを舞台に発表したスチームパンクSFが本書「ボーンシェイカー」である。
南北戦争開戦前夜、シアトルでは新たな黄金ラッシュが起きていた。永久凍土の下にあると想定される鉱脈の掘り出しをめぐって機械開発競争が起こり、発明家レヴィティカス・ブルーは「ボーンシェイカー」を開発する。1863年1月、ボーンシェイカーは暴走し、そしてシアトルで大規模な陥没が起こり、さらにはガスが噴き出してきた。このガスは「死病」と呼ばれ、次々に人は倒れていった。この濃密なガスのためシアトルの周囲には壁がつくられ、市街は切り離され、人々は壁の外、郊外に逃げ出すこととなった。そして、「死病」で死んだものたちは「死人」ゾンビとなって動き出し、その飢えた身体で新たな「死人」を生み出すのであった。
郊外でも水や空気は汚染されていたが、なんとか浄化することで生きていくことはできていた。
それから16年後のことである。南北戦争はいまだ続いていた。シアトル郊外で水の浄化工場に働き、一人息子を育てている女性がいた。名はブライア・ウィルクスという。ブライアは目立たないように生きていたかったが、世間はそうさせなかった。ブライアの夫こそが、ボーンシェイカーを生み出した男レヴィ・ブルーだったからだ。そしてもうひとり、ブライアの父メイナードはシアトル中心部からの人々の脱出劇のさなか、取り残されていた牢獄をひとりで破り、そこに取り残されていた犯罪者たちを死病から救ったのである。かわりにメイナードは死んだ。そして、レヴィ・ブルーもまたボーンシェイカーの暴走で死んだと考えられていた。メイナードは、その勇敢な行為故に英雄視されることもあったが、牢破りは犯罪者を野放しにしたと嫌われていた。そしてレヴィは、その名を口に出すこともはばかれるような死の張本人だったからだ。そのすべての「罪」をブライアは世間から追わされていた。
ブライアの夢はひとつ、いつかお金を貯めて息子のイジーキエル、通称ジークをつれて誰も知らない遠くの街に移り住むことだった。
しかし、16歳のジークは違った。メイナードは英雄視されることもあるし、生まれてからあったこともない父もまた英雄だったのではないか、と。真実を知るために、ジークはシアトルの壁の内側に入ろうと考え、そして実行した。
息子に家出に気がついたブライアは恐怖し、息子を連れ戻すために壁の内側に入ることを決意するのだった。
ということで、ガスマスクなしでは呼吸もできず、ゾンビあふれる19世紀のシアトルにまだ若いかあちゃんは反抗期の息子を追ってじいさんのガスマスクと銃とベルトを装着し、じいさんに救われた元犯罪者たちの力を借りながら飛び込んでいくのだった。
果たして息子に再開できるのか、果たして生きているのか、そして、父メイナードと夫レヴィの真実は?
と言う物語である。
スチームパンクである。歴史を改編し、蒸気の時代から電気の時代に変わる科学と発明の時代にゾンビまで取り入れて、「母は強し」を見せつける。
物語のパートは母ブライアの展開と、息子ジークの展開が交互に繰り広げられる。
ひさしぶりにスチームパンクを読んだけれど、時代劇っぽくていいね。恋愛も友情もないけれど、義理と人情に満ちた世界である。スチームパンクはこうでなくっちゃ。
2022.11.6