巨神計画
SLEEPING GIANT
シルヴァン・ヌーヴェル
2016
映画「パシフィック・リム」が公開されたのは2013年のこと。巨大ロボットといえば、映画「トランスフォーマー」は2007年からのシリーズ。もともとが1980年代にはじまっている。「ガンダム」や「エヴァ」など日本の巨大ロボットはアメリカ、ヨーロッパなどでも人気がある。しかし、SF小説としてはどうにも分が悪くなかなか本格的なSFとしては存在していなかった。「ガンダム」のインスピレーションともなったハインラインの「宇宙の戦士」のようなモビルスーツがせいぜいである。というのも、巨大ロボットは戦闘上でも建造上でも無理があるからだ。その重量、機動性から巨大さは宇宙空間においても地上においてもあまり意味を持たない。畏怖心を起こさせる神話性ぐらいである。
巨大ロボットを出すとSFの設定がとたんに陳腐に思えてくるのだ。
ところが、奇しくも2016年に発表された「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」と「巨神計画」は巨大ロボットをモチーフにした作品となった。前者は第二次世界大戦で日本とドイツが勝った世界における大日本帝国の巨大ロボットで、扱いにくい兵器であった。続編ではちょっと「エヴァ」っぽいロボットと伝統的巨大ロボットのロボット大戦的にもなったが、それを歴史改変ストーリーで押し通したところがある。
本作のシリーズでは、巨大ロボットは人類の製造物ではない。それは遺跡として現代の地球に現れる。明らかに人類の科学技術力を遙かに上回る存在の手になるものだ。
ローズ・フランクリンは、幼い頃、自転車で山の穴に落ちてしまう。そこには巨大な手が眠っていた。長じてローズは物理学者となり、アメリカ政府の秘密の機関に求められ、巨大な手の研究と他のパーツを探し、ロボットを完全体にするために働き始める。彼女の妄執ともいうべき執念と、このプロジェクトを支える謎の存在インタビュアーによって徐々にパーツが見つかり、それとともに巨大ロボットプロジェクトは少しずつ注目を集めるようになる。アメリカ大統領と直接のつながりをもち、軍を秘密裏に動かし、他国の要人や権力などとも交渉できるインタビュアーとはなにものか、そして、このロボットのパーツはどこから来たのか? 細かい部品が見当たらず他の部品とは断面同士を接することでくっついてしまう、エネルギー源さえわからないこのロボットは果たして動くのか? 動くとしたら、どうやって。ロボットパーツ探しと、操縦方法探しという物語と、未知の科学技術の存在に気がついた各国の動きが物語の軸となりおもしろさを醸し出す。
第一、ロボットが簡単には動かない。物語の後半ではそれなりに動き出すのだが最後までロボットが持っていると考えられる本来の能力を発揮するわけではない。
日本のロボットアニメで発掘ロボットと言えば「イデオン」がある。あれはイデオンそのものが巨大宇宙船で変形して巨大ロボットになるが、やはり使い道がよく分からず乗船クルーがえらい目に合う。それに近い設定だがそもそも駆動系が見当たらないロボットなので調べようにも調べようがない。頭が見つかって、操縦系と思われるヘルメットや操作盤があっても、誰でも動くというわけでなく、理由は分からないが特定の人物のみが動かすことができるロボット。動かすまでにとても時間がかかるというところは、決してアニメや漫画ではできない設定だ。パーツを集めることと、どうやって動かすか、がストーリーの本筋なのだ。それを読ませるのが小説のおもしろさ。
異星人が出るわけでもなく、主人公のローズやパイロットになったメンバーが四苦八苦する姿や人間関係をひたすら読む。サスペンス仕立てで、インタビュアーによる登場人物のヒアリング記録として紡がれる。少し突き放したような展開が、読み手を飽きさせない。
(2020.08)