NECROMANCER
ゴードン・R・ディクスン
1962
「チャイルド・サイクル」シリーズのひとつ。前日譚にあたるのかな。原題は「魔術師あるいは予言者」。時代は21世紀、宇宙時代の幕開けである。主人公のポール・フォーメインは鉱山技師。人口増加で求職難の地球において、鉱山技師は特殊能力者であり、その人材確保に苦労していた。5年前の海難事故で幻聴などに悩まされていたポールは、厳しい学業と訓練により手にした鉱山技師の職でいよいよ鉱山に降りる日が来た。幻聴はささやく。「降りてはいけない」と。その言葉通り、彼は事故に遭い、片腕を失ってしまう。そして、ポールの残された右腕は信じられないほどに発達し、そもそもの頑健強力な身体に常人を超えた右腕を持つ男になったのである。左手の再生は通常の方法ではうまくいかず、ポールは「第二の法則」と呼ぶ人間の真の力を引き出すことを標榜する礼拝ギルドの元を訪ねることにしたのだった。しかし、その礼拝ギルドは地球の管理社会や宇宙開発のあり方に対抗する組織の隠れ蓑であった。
「ドルセイ!」で描かれた宇宙に拡散する過程で人類が12に分離するその背景を描いた作品である。
冷戦下のアメリカはソ連(ソヴィエト連邦)との核戦争の危機におびえていた。世界は第三次世界大戦の危機を迎えると同時に、ユーリ・ガガーリンが1961年に友人宇宙飛行を行ない、それがアメリカのアポロ計画をもたらし、宇宙開発競争がはじまった時期でもある。宇宙開発と戦争は双子である。核戦争の鍵を握る「大陸間弾道ミサイル」は、宇宙開発における「ロケット」そのものである。その発射技術、制御技術は、まったく同じと言ってもよい。1945年に第二次世界大戦が日本の降伏を持って終結し、国際連合が構成され、世界は統合を模索し平和を誓ったその舌の根も乾かぬうちから、全人類を破滅に追いやろうという軍拡と冷たい戦争をはじめたのである。
そういう時代感を踏まえて読めば、この作品の意義は格段に上がってくる。
そして、なんということだろう。21世紀の今でさえも。
(2022.3.27)