われらはレギオン2 アザーズとの遭遇

われらはレギオン2 アザーズとの遭遇
FOR WE ARE MANY
デニス・E・テイラー
2017
 はい、3部作の2作目ですね。紹介し難いですね。本書は「古きよき、スペースオペラを愛するすべての人々に捧げる」と書いてありました。そうですね。古き良きスペオペで銀河系をまたぐといったら、「レンズマン」「スカイラーク」「スタートレック」「スターウォーズ」「宇宙の戦士」あたりがぱっと頭に浮かびますね。
 さて、2作目ですからね。1作目を読んでいない人は、すぐに目をつぶってくださいね。だめですよ。ネタバレとか怒っちゃ。
 ボブはいっぱいいますね。地球はこわれかけていて、生き残った人類は、せっかくやってきてくれたボブになんですぐ助けないんだとお怒りです。そんなこといったって、全員よその生存可能な星に連れて行くには足が足りない。ボブも足りない。資源も足りない。太陽系の資源はすっからかん。生存エリアごとに相互に我先だと喧嘩はするし、食料は恒常的に足りていないし、人類が地球の敵だというテロリストは破壊活動やめないし、もうわやくちゃ。
 一方、人類で言うところの石器時代の入り口にいる異星人種をみつけたボブは、天敵に滅ぼされかけている彼らをなるべく介入しないようにしながら助けようと日々もがいている。
 ほかのボブは、ブラジルの攻撃的AIにやられたり、なんとか対策を練ったり、狙われたり、狙ったり。テラフォーミング可能な惑星を気長にテラフォーミングはじめたり、遠く旅をしたり。
 そして、資源が根こそぎなくなっていて、そして、文明が完全に破壊され、それなのに、そこに生きていたであろう異星人の死体などが見当たらず、惑星は荒廃している不自然な惑星を見つけたり、して、それは、明らかに、別の強大な宇宙航行文明に破壊された跡で、どうみても、資源を集め、食料を集めているとしか思えなくて、つまり、ボブと、ボブが見つけた惑星と異星種族と、地球と、人類にとっての危機になるの、だ、と。
 宇宙に出始めたばかりのAIボブ。多くなったといってもたかが知れている。
 相手は、無慈悲で強大な敵。みつかってはいけない。しかし、やがて遭遇するだろう。そして、地球が見つかれば、せっかく助けようとしている人類が壊滅。
 ひいいいいい。
 しかし、AIボブたちはあきらめない。
 弱い人類が強大な宇宙種族の敵の前に戦う。おう、古き良きスペースオペラよ。
(2020年3月)

われらはレギオン1 AI探査機集合体

われらはレギオン1 AI探査機集合体
WE ARE LEGION (WE ARE BOB)
デニス・E・テイラー
2016
 物語は2016年にはじまり、2188年で一旦中断する。3部作なので、別々に書くのはどうかと思うけど、しかたない。自主的な慣例に従い、1冊ずつ書いていこう。3冊一気読みしたけど。
 原題の括弧内にある「我らはボブ」が本当のタイトルです。ボブが出てきて、登場から117年後の2133年にAIボブとして再生。AIボブは宇宙船となって人類の移住先を探しに(ひとり)宇宙に旅立つのであった。で、(ひとり)ではいろんなことができないので、AIボブは自分を増やすことにする。そのための資源や準備は用意されているし、増やすための金属などの元素は、宇宙空間で惑星・小惑星などを見つけて集めて回収する。目的が、人類が生存に適する惑星探しなので問題ない。やがてAIボブは、AIボブを呼ぶ。ボブ2では味気ないのでボブ2はライカーと名乗る。ボブ3はビル、ボブ4は、5は、ボブ2のクローンはボブ??。宇宙にボブがいっぱい。ところで、AIボブはコピーするたびに、ちょっとだけ性格や嗜好が異なっていく。記憶や基本行動は変わらないけれど、分岐時点でちょっと変わるし、その後の行為は並列化されないのでボブはボブにしてボブにあらずなのだ。
 AIボブはアメリカだけど、そのほかにも宇宙を目指す国や宇宙船はあって、ブラジルのAIは軍人で融通が利かず、すぐ攻撃してくる。困るね。
 だが、AIボブはちょっとしたものだった。まず、前世の仕事がプログラム会社の社長で、ばりばりのSFおたく。つまり、プログラムが書けて、SF的な状況に適応できて、小さな事業から大きな事業まで管理、運営、経営もできちゃう。殺人とか軍とか攻撃とかは大嫌いだけど、やるべきことをしっかり見つけて、楽しみながら目的に向かって進む。一度死んでいることを自覚しているから、死も怖くないし、ボブが増えていくことにも嫌悪感はない。何人かお互いに相性が悪いボブもいるけれど、総じて、別のボブとはうまくやる。合わなかったら離れればいい。宇宙は広い。
 それぞれのボブの興味や性格が異なるから、お互いに分業もできるし、その成果は相互に役立てる。時間は無限にある。もちろん、滅びかけている人類はなんとか救いたいし、お互いに離れると相対論的な途絶感はあるけれど、まあ、ボブにはそれを解決するための時間と能力だってあるんだ。
 だって、無敵のAIだから。
 作品としては、「歌う船」の系譜もあり、伝統的スペースオペラにラリー・ニーブンのようなSFおたくくすぐります作戦ものっかっていて、にへらっと笑ってしまう。
 荒唐無稽といえば荒唐無稽なのだけれど、しっかり読ませてくれる。
 まだまだおもしろいね、SF。
(2020年3月)

楽園の崩壊

楽園の崩壊
THE OUTCASTS OF HEAVEN BELT
ジョーン・D・ヴィンジ
1978
「琥珀のひとみ」は読んだ記憶がある。サンリオ文庫からでている「楽園の崩壊」をようやく手に取った。もちろん古書としてである。作者のジョーン・D・ヴィンジは女性で、ヴァーナー・ヴィンジが男性。ふたりの関係は、ジョーンの最初の夫がヴァーナーということ。ヴァーナーの作品はたくさん読んでいて、とても気に入っている。調べてみたところ、ジョーンは「雪の女王」で1981年のヒューゴー賞をとっているし、「琥珀のひとみ」でも中編賞をとっている。また、スターウォーズ、砂の惑星、マッドマックスなど、映画のストーリーブックの著者として80年代アメリカではよく知られていたようである。
 本書は、どことなくアーシュラ・K・ル・グィンのアンシブル世界にも似ているが、それよりももうすこし悲惨な植民星系を舞台にしている。アンシブルも超光速もない、化学ロケット、核ロケット、そして、ラムスクープ船の世界。
 モーニングサイドと呼ばれる不安定な星系の住民たちの危機を救うため、なけなしの資源をつかいラムスクープ船をしたて3光年先のヘブン・ベルトを目指して長い旅を続けてきた宇宙船レンジャー号は、星系内に入るなり、化学ロケット船からの攻撃を受け死傷者を出す。
 ヘブン・ベルトは内戦により崩壊した首都惑星ランシングと、わずかな資源をもつグランド・ハーモニー(ディスカス)空域、わずかにもそれなりの社会を維持しているデマルキー空域の各小惑星が分裂し、協調を失ったまま、滅びの道をたどっていたのであった。
 レンジャー号の船長ベサ・トルギュッセンは、ランシングから資源を求めて飛び立った回収船ランシング04号の二人の若者がレンジャー号に侵入したことから、この二人を通じて、星系の実態を知り、モーニングサイドに戻るための燃料となる水素を求めて一計を講じる。しかし、ディスカス、デマルキーの人々は、星系外から訪れたラムスクープ船とその技術こそ星系再生の鍵を握るとして、レンジャー号の確保に乗り出す。
 これだけ書くと、スペースオペラっぽいけれど、全然違う。書かれているのは、モーニングサイドの人々が生み出した社会と思想、生き方、そして、崩壊したヘブン・ベルトのそれぞれの状況に置かれた人々が生み出した社会と思想、生き方のぶつかり合いであり、それを象徴する個人を通じて考える、個人とは、社会とは、家族とは、という問いであった。
 あと書きの解説にもあるが、当時は、ル・グィンをはじめとして女性SF作家が次々と頭角を現し、フェミニズム運動ともつながる思想や社会をSFの舞台で提起し、実験していた時代である。本作品も、時代背景を考えると、女性船長をはじめ、女性の立場や役割がとても重要な要素をしめている。それだけではなく、経済、社会、家族について、いくつもの提示がある。しかし、どの社会についても、それぞれに外部から見れば問題があり、正しい社会などないのではないかという疑問も、その底には見える。それでも、個人としてできること、正しいこと、やり遂げたいことを人は求め、動くのだ。
 そこには、殺すより殺さない方向で、壊すより、生み出す方向で人は動くことができるという希望も込められているように思う。
 旧世界=旧地球を離れ、厳しい外宇宙の世界で人類が生きる上で獲得しなければならない思想や社会はどのようなものだろう。そういう問いは、70年代も、2020年代も、そう大きくは変わらないのだ。
(2020.02)

プロテウスの啓示

プロテウスの啓示
SIGHT OF PROTEUS
チャールズ・シェフィールド
1978
 初読。好きな作家のひとり。しっかりした科学知識をふまえ、荒唐無稽大言壮語の物語をみせる。科学者であり、SF作家であり、どうやら面倒見もよくて、社交的であったようである。
 本書は最初期の長編である。舞台は22世紀の地球。人口は140億人を超え、世界は経済格差に分断されている。宇宙開発は太陽系に広がり、そして人間は整態技術により自由にその姿を変えられるようになっていた。
 考えてみたらいい。お金と形態を昆虫の変態のように変異させるためのしばらくの日数さえあれば、想像のつく限りの、デザインされた形態になれるのだ。えら呼吸で海を泳ぐことも、深海に潜ることも、滑空することも、チーターのように走ることも、象のように巨大になることも、そして、宇宙空間で活動しやすい形態をとることも。藤子不二雄の「怪物くん」やカフカの「変身」どころの騒ぎではない。
 もちろん、俳優や歌手などと同じような姿形になることもできるだろう。ゴジラやウルトラマン、仮面ライダー、ウルヴァリン、ポムポムプリン、どんな姿でも、生物体であればその形をとることができる。物理法則と生物のしくみによるものなら付加機能もつけられる。蜘蛛の糸、毒蛇の毒、サイの角、カニのハサミ。
 私は想像力に欠けた人間だから、せいぜい光合成のできる皮膚か髪の毛があればいいと思う。そういえば、「光合成だけで生きていきたい」という歌がラジオから流れていた。そんな21世紀に生きている。でも、光合成だけで生きるのはいやだなあ。動物としておいしいものをたくさん食べたい。食べても食べても太らないというのも困る。食べたら食べたなりの因果応報。カロリーを消費しなければ太るのだ。ああ、一度、さらさらヘアになってみるのもよいかもしれない。あと、視力がよくなるといいな。でも、これ以上目が大きくなるのは困る。目が大きいのだ、私は。別にコンプレックスでもないし、たいして形態を変えたいとも思わない。
 でも、「プロテウスの啓示」の世界での人は違う。
 合法、違法を問わず形態を変えたがる人たちが多いのだ。
 ところで、作品の内容とも関わるのだが、たとえばカメレオンやある種のタコのように体表の色を自在にコントロールする形態が身につくとしよう。それが液晶画面のように複数の色素の集合体になっていて、ものすごい勢いで各単位を自由に変えることができ、それを認識する目(受容体)をもっていたら、高速で情報を送受信できるのではないだろうか。2台の大画面液晶モニターがあって、合い向かいになっていて、ミリ秒単位で相互に情報をやりとりするのだ。そうなると、言葉よりもはるかに密度の濃い情報のやりとりができる。しかし、そんなに情報を短い時間で大量にやりとりする必然性ってなんだろう。
 と、インターネットを使い、動画やデータのやりとりを高速で行いながら考え込むのであった。
 本書「プロテウスの啓示」の話に戻ろう。といっても、書けることはあまりない。
 ジョン・ラーセンとベイ・ウルフは違法な整態技術適用者を探して摘発する管理局捜査官。あるとき、ラーセンは学生からIDの存在しない移植用肝臓を発見したとの情報を得る。この時代、人にはすべてIDがつけられており、そのデータがその人がどんな整態をしていても個人を特定できるようになっているのだ。この無IDへの操作は、コンピュータからのデータ抹消などどこかで妨害されていた。それを追いかけるうちに、事件に気がつくふたり。
 そして7年が過ぎ、新たな事件が発生する。小惑星帯から地球にリゾートに来た3人が海の底で、これまでに見られたことのない整態の変態過程で死んだままの状態で発見された。この事件は太陽系を巻き込んだ大きな事件に発展する。
 それは、太陽系の…。
 これ以上は書けない。
 とにかく、1部、2部、3部と、話が飛躍していき、最初のストーリーとつながっていてもかけ離れた時空の地平のかなたへ読者を連れて行ってしまう。
 初期の作品からこうなのだ、シェフィールドは。
 小道具は多少古くなっているが、いまでも十分読み応えのある作品であった。
(2020.02)

六つの航跡

六つの航跡
SIX WAKES
ムア・ラファティ
2017
 地球初の恒星間移民船ドルミーレ号。2000人の冷凍者、500人格分のデータを乗せて地球を離れ、航海を続けていた。船を操るのは6人のクローン乗務員とAI・イアン。
 2282年、クローンに関する国際条約が成立し、クローンは一度に1体のみ、人格データは最新のもののみ、特別な条件を除き、人格データの変更、DNA改変したクローン体の作成は禁止された。
 2493年、6人のクローン体は、ドルミーレ号の中で船に乗る直前の記憶までを持って目が覚めた。あたりは血まみれ、彼らの死体が重力を失った船内で浮かんでいた。AIも自我を失い、記録と記憶を失っている。最悪の目覚め、最悪の事態。
 彼ら6人のクローンは、地球で犯罪を犯し、移民船が無事に目的地に到着すればその罪は免罪されるという条件で乗り込んでいた。誰がどんな犯罪を犯したかも明らかにされない。そして誰かが殺し、破壊工作をしない限り、現状は生まれない。
 誰もお互いを信じられない。犯人は?動機は?手段は?
 クローンと人格のデータ化技術により、事実上の不死を得た人類。
 初期には、クローン体のDNAハック、人格データのハックなどが合法、違法問わずに行われていた。その技術はクローンに関する条約ができたことで地下に潜り、そして、その技術は、技術そのものの力で途絶えることなく継承されることになった。
 6人の過去が数百年に渡って少しずつ明らかにされる。
 それは…。
 密室殺人ミステリ? いや、ミステリとは言えないかも。SFミステリは、最初に科学技術的な背景が明らかにならないと読者を置いてきぼりにしてしまう。だから、謎解きが少しずつ進むと、推理小説にはならない。でも、ミステリ感は満載。密室ドラマでもある。
 映画と言うより、舞台向きなのかもしれない。
 クローン&人格継承技術がもたらす闇について、なるほどと思える作品でもある。
 別に恒星間移民船である必要はないのだけれど、密室にするにはこれが一番。
 かのハインラインも使っていたしね。
(2020.1)