巨神降臨

巨神降臨
ONLY HUMAN
シルヴァン・ヌーヴェル
2018
「巨神計画」「巨神覚醒」に続く第三部は「巨神降臨」。日本語タイトルの付け方がうまいね。「SLEEPING GIANT」「WAKING GODS」「ONLY HUMAN」直訳すると「眠れる巨人」「目覚めた神々」「人間だけ・人間かぎり」みたいな感じなのかな。
 第三部は、ネタバレ要素があることをご承知いただきたい。
 舞台はふたつ。地球と、それから、エッサット・エックトと呼ばれる異星人の星。
 今回はふたつの世界の人間と社会、政治のあり方について相互に共鳴しながら、その問題を問いかける作品になっている。
 もうひとつのテーマは親子。子どものことを思う親と、親の干渉が許せない子の確執。
 もちろん、中身はロボット大戦です。
 ただ違うのは、地球(人類)は、絶対的に力を持っていないということ。ことここに来ても、ロボットがどうやって動くのか、その機能のすべてを使いこなせない人類。そもそもその科学的背景を理解していないのだからしかたがない。数千年レベルで科学技術力が劣るのだ。
 異星人に攻められる以前に恐怖と絶望に駆られた地球人と地球の各国政府は、内側に対して敵を作りはじめる。ロボットパイロットの資質である異星人のDNA要素を元に、ロボットパイロット探しのために開発された技術を使って人々を選別し、収容所に入れ、そして、強権的政体に変わりはじめたのだ。分断と憎悪を煽る世界。収容所に入れる人たちは仮想の敵であり、仮想の加害者なのだ。収容所に入らずに暮らす人たちは仮想の被害者として、仮想の権利として収容所に入れることを、あるいは、その一部を殺戮することを必要悪とする社会。それは限りなきファシズムであり、最後には誰も残らない自滅への道なのだが、ますますエスカレートするばかりである。
 一方、エッサット・エックトは本来の皇帝を抱いているが、その皇帝の政治的権力を封じ、超民主主義とも言うべき評議会の合議制によって成り立っていた。ほぼすべてのことは、市民による投票によって判断される。小さなことは決まっても大きなことは簡単には決まらない。さらに、この星では、一度多くの星に分散し、それぞれの星で発展し、交流した後に惑星に戻り閉じこもった歴史を持つ。そのため、純血種と異星での遺伝的要素が入った非純血種の人々がいて、彼らには市民権が持たされていない。彼らの扱いをめぐってはまだすべてが決まらないのだ。地球で起きたできごとをめぐって、そして、数名の地球人がエッサット・エックトに呼び込まれたことをめぐって、非市民的な扱いの人々の不満が高まる。それは、皇帝、評議会・市民をまじえての社会的混乱を引き起こし始めた。
 シルヴァン・ヌーヴェルは、アニメ、特撮、映画などのフィギュアマニアであり、そもそも、それがきっかけで作品を書き始めている。しかし、その個人的背景には戦争や差別、分断というものに対する心からの拒否感と人間のもつ悪と良心、正義についての認識があるようだ。中身は巨大ロボットエンターテイメントだが、三部作を通して、人類の愚かさと可能性について書き上げようとしている姿がある。
(以下引用上巻324ページ)
わたしたちを引き渡すことで協力していると思っていた。そんなふうに聞かされたのだ。とんでもない。でたらめだ。だが彼らはそれを簡単に信じた。鵜呑みにして、次を求めた。自分たちが正しい側にいたいから、このばかげた話を喜んで信じ、世界で起こっている悪いことの責任を全部押しつける誰かを手に入れる。けっして何事にも疑問を持つ必要がなければ、きっとどんなにか居心地がいいだろう。(引用終わり)
 最上のエンターテイメントに込められた思い。
(2020.09)