テメレア戦記Ⅱ 翡翠の玉座

THRONE OF JADE

ナオミ・ノヴィク
2006

 フランス軍のイギリス本土上陸作戦を防ぎ、立派な英国のドラゴン空軍の一員として周りから受け入れられた漆黒のドラゴン・テメレアと、元海軍将校のキャプテン・ローレンス。しかしテメレアは中国皇帝がナポレオン皇帝に下賜した卵から生まれた稀少な竜。英仏の海戦による正当な略奪とはいえ、中国側が黙っているはずはなく、第二巻ではいきなり中国側が皇帝の兄ヨンシン皇子を使節団としてイギリスに派遣してきた。いわく皇帝が皇帝に贈ったものだからテメレアを返せ、戦闘に使うなど論外、さらに高貴なる人間以外がテメレアに乗るなど許されないことでありロー4レンスの搭乗は認められない…。
 英国政府は14年前に中国皇帝を怒らせてしまい、その後の貿易と関係拡大があまりうまくいっていないことからなんとか穏便にすませようとする。つまり、テメレアを返す見返りを求めることで利をとろうということ。もちろん、ローレンスが納得できるものではなく、テメレアもローレンスと離れることなど考えられない。
 さまざまな思惑の中で、ローレンスとテメレア、若き英国外交官のハモンド、中国皇子ヨンシンをはじめとする中国使節団一行は、英国海軍の巨大なドラゴン輸送船アリージャンスでとりあえず中国に向かうことになる。艦長はローレンスの画策でかつての優秀な部下トム・ライリーが再登場。一癖も二癖もある登場人物たちのなかで苦労するローレンス、アフリカの喜望峰を回り、インド洋を抜けて中国へ。途中、フランス軍との海戦があったり、巨大な「アレ」に襲われたりしながら、いよいよ中国へ。はたしてローレンスとテメレアの運命は、ローレンスとテメレアの選択は?

 いきなりの中国。いきなりローレンスを苦しめる英中外交問題。自分の運命を勝手に決めようとする人間たちにむかつくテメレア。
 おいおいナポレオンとの戦争はどうなる?
 それにしても海の旅である。テメレアは船上生まれ、海が大好きな竜だが、成長してはじめての長旅である。第一巻ではローレンスとともに空軍(空を飛ぶ竜の軍)で訓練を受ける姿が話の柱になっていたが、第二巻では海の冒険をたっぷりと味わえる。テメレアはアフリカの奴隷貿易を目の当たりにし、人間の愚かさを知る。船上では英国の竜として育てられたテメレアが、中国の様々な文化にも触れる。英国人同士も、海軍と空軍の考え方や行動規範の違いによる衝突、外交官と軍人の行動規範の違い、中国使節団との緊張含みの複雑な関わり。そこに19世紀時点での英中の階級制度による問題。
 そして中国上陸。竜が数少ない英国と違い、竜が人間と共存する中国。その姿を見たことで得られるローレンスとテメレアの新たな視座。
 はたして彼らはどんな選択をするのか。できるのか。
 結末に選択が待ち構える冒険の旅。読者としてはわくわくどきどきするじゃないか。登場人物たちはとても大変だろうけれど。
 ということで、間違いなく第一巻よりも充実し、おもしろく、わくわくして、どきどきして、そして、しっかり考えさせられる。最高のエンターテイメント歴史改変ファンタジー。