外交特例

外交特例
DIPROMATIC IMMUNITY
ロイス・マクマスター・ビジョルド
2002
 2014年5月3日読了。これが現段階での最新作でようやく翻訳されたもの。シリーズだから、背景を知っていないとおもしろさは半減するが、SFミステリーである。寄港中のステーションで兵士が失踪。そこからはじまる大騒動。ビジョルドの別の作品である「自由軌道」で登場する遺伝子改変された無重力生活に適応した人類クァディーの世界で事件解決と外交を繰り広げる中年のマイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガン聴聞卿。
 ビジョルドのSF世界の総仕上げといった感じである。ファンタジー作品が人気なだけに、今後、マイルズシリーズが続くのか、心配。
(2015.6.20)

21世紀潜水艦

21世紀潜水艦
フランク・ハーバート
THE DRAGON IN THE SEA
1956
 原題が、「海のドラゴン」だが、半世紀前の作品だと未来感満載の「21世紀潜水艦」だよなあ。今なら、「22世紀潜水艦」、ほら、おや?
 米ソ冷戦、核戦争、石油危機への恐怖。1950年代を色濃く反映した作品である。すでに核戦争は起き、石油をめぐる紛争が激化する戦時下の世界で、原子力潜水艦に新たな任務(原油の強奪)が課せられる。閉鎖空間での精神的なトラブル、スパイの潜入、深海での海戦。「デューン」の作家の初の長編作品。個々人の心理と関係といったあたりは、その後の作品の片鱗を思わせる。
 今ならSFというより、近未来戦争サスペンスといった感かな。
(2015.6.20)

白熱光

白熱光
Incandescence
グレッグ・イーガン
2008
 2013年12月30日読了。いやあ、難しい。でも、壮大でおもしろい。人格って何だろう。存在ってなんだろう。生命ってなんだろう。目的はあったほうが人生は充実するよね。
 まあ、ずーっと先の先の先の未来だ。人類は他の知性体や非物質的な知性体が織りなす世界の一端に存在する。人類に出自があると言ったほうがいいかもしれない。
 世界は、物質世界と電脳世界があり、それは相互に融合しながらある。
「個」は存在し、コミュニティや社会、世界も存在する。ただし、様々な条件、設定、あり方、関わり方がある。物質世界も電脳世界も、そこに生きる「個」も当然だが、物理的な法則、宇宙の法則には影響する。主観時間は主観時間なのだし、相対時間は相対時間だ。だから、個と個の関係は物理法則と時間軸により変わりゆく。同じ物理法則、時間軸、世界ルール(物質世界であれ電脳世界であれ)を生きるなら、その個と個はつながりのある家族であったり、パートナーであったり、友人などなどであるだろう。旅は道連れである。
 さて、主人公が旅に出る。旅に出れば、出会いがあり、発見がある。
 それは物語になる。
 個が複数いれば、そこに物語が生まれる。
 それが、生である。
 いやあ難しいね。
(2015.6.20)

ズー・シティ

ズー・シティ
ローレン・ビュークス
ZOO CITY
2010
 2013年12月1日読了。刑罰として特定の動物と精神的にリンクされ、特殊能力を発揮する犯罪者。それ以外は、南アフリカの現状をどこまで反映しているのだろう。読み方にとまどう1冊だった。
 なんだろう。呪術をSFに仕立て上げた、SFファンタジーの南アフリカ版?
 自分の文化的コンテクストでは読み解きにくい作品。しかも、翻訳だからなあ。
 舞台は近未来。現代社会を色濃く反映した南アフリカ。
 もう一度、時間を置いて読んでみたい。保留。
(2015.6.20)

地獄への門

地獄への門
RE-ENTRY
ポール・プロイス
1981
 初読。前作が「天国への門」で、同じ舞台の数百年後だからって、邦題を「地獄への門」とするのはいただけないけど、直訳で「再突入」とするわけにもいかないし、意味合いとしては、ブラックホールへの再突入だけでなく、「やりなおし」とか「もういっかい」みたいな意味もあるので邦題をつけるのが難しいのはわからなくもない「タイムパラドックス、多元宇宙論」作品。
 前作で発見された二重ブラックホールによるいくつかの星系へのジャンプの可能性。それを追及した結果、二重ブラックホールのネットワーク「宇宙の多島海」が開拓され、居住可能な星系に人類は広がりを見せていた。そうして数百年の時が経った。惑星ダーウィンは、恐竜生態系などが復元された観光を主産業とする辺境惑星である。ここに生まれ育ったフィリップ・ホールダーは、地球に暮らし、時を経て惑星ダーウィンに戻る宇宙船に乗っていた。彼は、ある目的を持っていた。
 アンジェリカ・クレイモアは地球の特別捜査官のようなもの。ブラックホール内で着陸艇を強奪し、いずこかに消えたフィリップ・ホールダーを調査するよう政府高官から求められた。ホールダーは、政府高官が権力を握るきっかけともなったある宇宙船事故で高官と同乗し、生存したひとりだったのだ。
 彼女は、地球でホールダーに二重ブラックホールによる多元宇宙と時間遡行の可能性を伝えた老科学者クラリッサ・サイクリックとともに、フィリップ・ホールダーの時間線を追うことにした。
 ということで、多元宇宙論とタイムトラベルものを組み合わせたような展開。これはSFの中でも一番難しいんだよね。単なるタイムトラベルものならば、時間線はひとつ。時間旅行者が自分自身と出会うことによるタイムパラドックスをどうするか、あるいは、それにより改変される歴史と、その未来をどうするか、という設定を考えればいい。多元宇宙論だけならば、無限にいる(可能性が実現化された)自分というものを軸に組み立てれば良い。多元宇宙論とタイムトラベルを組み合わせると話がとてもややこしくなる。なぜならば、タイムパラドックスは複数の時間線でのできごとであり、起きた現実を過去に変えようとすれば、それは別の時間線での結果になる。因果律はひとつの時間線では成立するが複数の時間線では因果律は破綻する。そこに、時間線を渡る者の主観というのも発生する。つまり、時間線を渡り、かつ、自分が存在していた時間よりも遡行したという行為によって近くの時間線の過去に行き、未来を変えたときに、はじめて、主観上、未来が変わったことになる。ね。ややこしいでしょう。
 ややこしいのを何とか書き上げようと努力したのが、本書「地獄への門」つまり、二重ブラックホールネットワークというアイディアを空間だけでなく時間に延長した作品を書こうとしたことで、「地獄への門」を開いてしまったのは、当の作者だったってことではなかろうか。
 私は読んだ端から忘れていくので、ストーリーを追いかけるのが大変でした。2回続けて読むと、展開が理解できるのだろうね。しかも、本作品は、ホールダーを仮想犯人、クレイモアが犯人を追う刑事という謎解きサスペンスものにしているからややこしい。そこに、さらに、全体に大きく影響する「サイクリック」という名前からして怪しい科学者が出てくるからややこしい。あーややこしい、ややこしい。だって多元宇宙だから。
(2015.6.13)