銀河帝国の興亡1

銀河帝国の興亡 1
FOUNDATION
アイザック・アシモフ
1951
 私がはじめてファウンデーションシリーズに出会ったのは、中学生の終わりか高校生のはじめの頃である。手元には、創元推理文庫SFの「銀河帝国の興亡」シリーズがある。1978年の第29版で340円であった。1983年に第四部の「ファウンデーションの彼方へ」が書かれたことで新訳の「ファウンデーション」三部作がハヤカワSF文庫から1984年に出版されるが、今を持って残念ながらこれは読んでいない。
 もちろん、第四部以降の全作品と、アジモフ没後に書かれたベンフォード、ベア、ブリンによる新三部作はきちんと読んでいる。また、関係するロボット物もほぼ読んでいる。
 このシリーズはSF史に燦然と輝く作品群であり、それ自体が壮大な宇宙史である。私個人としても印象の極めて深い作品である。
 それは、天才数学者ハリ・セルダン博士が生みだした心理歴史学(サイコヒストリー)の印象の深さである。ひとりひとりの人間の行動は予測がつかないものの、経済学と同様に極めて大きな集団に対しては、過去の歴史、人類の心理、行動などから数学的手法で統計的に予測を立てられるというものである。
 さらに、ハリ・セルダンは、心理歴史学をうまく使えば、人類の行く末を操作できる可能性を示した。
 ファウンデーションシリーズでは、強大な銀河帝国がまもなく崩壊し、その後3万年に渡る暗黒期が訪れることが予測され、その暗黒期を1千年に短縮し、ふたたび人類の繁栄を迎えられるようにするための計画が立てられ、その実行と実効性をめぐってストーリーが進む。
 これにはまったSFファンは数限りない。私もはまった。しかし、私が入学した大学の学部には、心理歴史学にはまった故にその学部を選んでやってきた人間がいた。彼は言った。「いつか心理歴史学は現実となる」と。
「宇宙船ビーグル号の冒険」(ヴォークト)の総合科学=ネクシャリズムにはまって来た人間もいた。
「総合科学部」である。感慨深い作品である。
 2006年の今、あらためて読み返してみると、ありゃ、ハリ・セルダンは最初にちょっと出てくるだけだ。後は死んで後の話で彼の「予言」は2回しかない。
そうなんだ! ちょっとびっくり。心の中ではハリ・セルダンが大活躍しているのだが、そうか、それはアジモフ晩年に書かれた「ファウンデーションへの序曲」「ファウンデーションの誕生」のことか。
 忘れているものだ。
 さて、銀河帝国の興亡史は、栄華を誇る帝国の中心トランターの「大学」にいるハリ・セルダンとその心理歴史学による帝国への反逆、追放をもってはじまる。時に帝国は銀河紀元12067年を数え、あまたの惑星に1000兆人の人類を誇り、その距離はなく、帝国の中心トランターは鋼鉄惑星として銀河系の中心に位置し、人口400億人以上のすべての物資、食糧を輸入に頼る地下都市惑星となっていた。
 第一部心理歴史学者(サイコ・ヒストリアン)では、ハリ・セルダンの抱える研究者らが辺境の惑星テルミナス(ハヤカワ版でターミナス、以下、ターミナスに統一)に追放されることが決定するまでが描かれる。ハリ・セルダンはその2年後に没。
 第二部百科辞典編集者(エンサイクロピーデイスト)では、セルダン没後50年後に迎えたはじめての「セルダン危機」をサルヴァー・ハーディンが解決し、そしてはじめてハリ・セルダンの立体映像がターミナスに現れるまでを描く。
 第三部市長はそれから30年後(没後80年)の2回目のセルダン危機を、第四部貿易商人、第五部豪商はその後75年後(没後155年頃)までを描き、初の豪商ホーバー・マロウの登場と3回目の「セルダン危機」を描き出す。
 短編形式になっており、実際に初出は短編として掲載され、それぞれを楽しく読むことができる。アジモフお得意の推理小説形式であり、読後の爽快感はたまらない。また、それぞれの冒頭にリードとして書かれる「エンサイクロビーディア・ギャラクティカ(銀河百科大事典)」の引用文も本文の解説や伏線としてうまくリンクしており、心をくすぐる。いい時代の素直な作品である。楽しいなあ。
(2006.3.18)