スパイダー・スター

スパイダー・スター
SPIDER
マイク・ブラザートン
2008
 西暦2433年にはじまり、西暦2494年に終わる物語である。今から4世紀後、舞台はポルックス星系惑星アルゴにはじまる。人類は、地球から遠く別の星系に移住を開始していた。ポルックス星系惑星アルゴには、すでに滅んでしまったと思われる知的生命体文明の遺跡があった。1千万年前から高度な科学技術を持ち、宇宙時代を築いていたアルゴノート文明は25世紀の人類にとっても新たな科学技術を知る遺跡として注目されていた。高度な科学技術には「パンドラの箱」が隠されていることがある。いくら慎重にしていても、いくつもの罠があり、気がつかないうちに、地雷を踏んでいることになる。アルゴに移住した人類は、その地雷を踏んでしまった。突然アルゴの太陽であるポルックスが惑星アルゴの衛星に向けて光のパルスを放ち、攻撃をはじめたのである。
 古代異星種族の兵器になすすべもないアルゴの地球人類。この武器の秘密を解明し、惑星アルゴの人類破滅を防ぐため、アルゴノート文明の記録にあるスパイダー・スターを探し、そこにいると言われている超古代からの「存在」にアクセスする必要があるのだ。
 かつて一度だけ、生きた人類外の知的生命体と接触したことのある男を中心に、新たな探検隊が組まれ、伝説のスパイダー・スターを目指す。家族とアルゴの人類を救うために!
 キーワードは「暗黒物質」である。暗黒物質からエネルギーを取り出すのだ。暗黒物質とは何か、が、ひとつの鍵となる。
 一方で、ストーリーはあくまで人間中心。ちょっと変わっているのは、登場人物の「ひとりごと」が多いのである。ぶつぶつ言っているわけではない。作者のブラザートンは、主人公だけでなく主要登場人物全員について、頭の中で考えていることを細かく書き記す。主に、行動の動機につながるものだが、「私はこう考える、故に、こう行動する」「こういう行動をした結果、私はこのように次の行動を考える」をしつこく書いているのだ。ストーリーは冒険あり、宇宙戦争あり、肉弾戦戦闘あり、未知との遭遇あり、ウラシマ効果による別離ありと波瀾万丈なのだが、そういう感じを受けないのは、作者が登場人物の内実にこだわるからだろう。ちなみに、作者は現役の天文学者で専門はクエーサーと活動銀河核の観測研究だそうである。その知識と最新の宇宙論が十分に反映されている。科学者で、専門の知識を活かしてSFを書いているといえば、ロバート・L・フォワードが思い浮かぶ。やはり、登場人物の表現にはやや難があったが、科学的な表現では楽しく読むことができる。同じような感じだ。
「暗黒物質」「暗黒エネルギー」については、今ホットな話題がある。もしかしたら「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」を宇宙論に導入しなくてもいいのではないか?という理論である(日経サイエンス09年7月「暗黒エネルギーは幻か?」)。もちろん、ひとつの説であり、どっちがどうだという考証ができるような専門家ではないのだが、外野にいる科学の話題ファンとしては、楽しい限りである。
 そういう点から、本書「スパイダー・スター」は楽しい。
(2009.06.15)