蝉の女王

蝉の女王
BRUCE STERLING’S SHORT STORY COLLECTION
ブルース・スターリング
1988
 日本版オリジナルの工作者シリーズ短編集であり、ウィリアム・ギブスンが序文を、著者のブルース・スターリングがあとがきを短編集用に寄せている。1980年代、サイバーパンクが日本を重要なマーケットにしていたことを物語る出来事である。
 テクノロジーの暴走によって人は変質を求められる。それは、人間性や社会性、あるいは、地球的生命からの脱皮であり、生命は宇宙という広大な舞台の中で広がり、無機物を生命化して広がっていくもので、それこそが物質的知的生命体の究極の目的であり、優先される行為である、といったテクノロジーの延長にある「哲学」に支配された世界である。
 知性すらも、その哲学の前にひれ伏す。それをスターリングは、「巣」に登場する異星生命体を通じて提示する。そして、その異星生命体を「研究」するふたりの人類出自の者を通じて、生命とは何かを問いかける。
 サイバーパンクの中でも、きわめて異質なビジョンを提示するのがブルース・スターリングなのであろう。
「蝉の女王」での、人工的に作られ、火星のテラフォーミングを進めるための地衣類への偏愛、「火星の紙の庭」でのテラフォーミング過程にある厳しい環境で生きる原住民への冷たいまなざし。
 理解と拒絶のすれすれのところに物語を紡いでいくスターリングは、短編向きの作家なのだろうか。同じ工作者シリーズの「スキズマトリックス」に比べれば、短編の方がはるかに読みやすい。また、各短編ともきちんと「オチ」を用意してあり、その「オチ」の意外性とおもしろさで、どんなに異質な作品であっても楽しく読むことができる。「スキズマトリックス」では得られなかったすっきり感が、本書「蝉の女王」にはある。
(2006.8.17)
あはは。蝿じゃなくて、蝉だ。
蝿って書いてた。ばっかだね、私。