神の水

神の水
パオロ・バチガルピ
THE WATER KNIFE
2015
 1970年代だったか80年代だったか、資源枯渇がずいぶんと話題になった。人口増加、経済成長、工業化は、石油資源、水資源の不足をもたらし、人類は危機に陥る、と。アメリカ大陸で行われている単一作物の大面積栽培は地下水のくみ上げによって成立し、土壌は塩類集積で荒廃、水資源も失われていき、動力である石油資源の枯渇とともに食糧危機にみまわれるであろう、と。
 その後、フロンガスによるオゾン層の破壊、二酸化炭素等の温暖化ガス濃度上昇による気候変動のリスクが全面に出てくる。石油資源については、80年代には値段が上がれば採掘方法が変わり資源不足には陥らないのではといった楽観論も流れたが、水資源については、確実に、深刻になっている。
 小規模であれば、海水をエネルギーをつかって淡水にすることは可能であり、その技術は中東などで利用されている。しかし、それはエネルギー=コストが必要である。
 ところで、アメリカ大陸は水が少ない。あー、中国大陸も実は水が少ないが、それでも、アジアモンスーン気候のおかげは大きい。アメリカ大陸でも全土で水に困っているわけではなく、ないところには、ない。ないところに、あるようにして人が集まったのがアメリカ南西部。その水の命脈は細い。
 気候変動の影響下の社会状況を書かせたら右に出る者のないパオロ・バチカルビの「ウォーターナイフ」は、近未来のアメリカ南西部での水をめぐる人々の物語である。州の力が強くなったアメリカで、水利権をめぐり実力闘争(軍事力)、謀略がめぐらされ、負けた都市では、人々が飢え、苦しみ、死に、環境難民となる。
 怖い話である。水にあまり困ることのないモンスーンの島国にいる私たちは、気候変動について漠然としか考えない。台風や寒波、熱波などは、「異常気象だよね」と言って、当事者以外は、イベントぐらいにしか思わない。
 しかし、環境難民は確実に発生していて、今後、水は国際紛争、地域紛争の最大要因にもなりかねない。
 描かれているシャワーを浴びたくて、洗濯をしたくて、富裕層に身体を売る少女たち。
 その姿は、政治難民、環境難民が増えつつあり、貧富の格差が極端に広がったこの10年のうちに、はじまっているのかもしれない。
2016.1.29