凍りついた空 エウロパ2113

凍りついた空 エウロパ2113
THE FROZEN SKY
ジェフ・カールソン
2012
 なんだい、おもしろいじゃないか。22世紀、人類はいまだ混沌としている。太陽系でもっとも生命の可能性が高い木星の衛星エウロパは、人類の重水素供給源として自動採掘マシンが氷の星を掘り、内惑星に向けて打ち出している。しかし、南極エリアの氷の下を探索していたマシンが微生物を発見、その調査のために国際科学探査チームが地球から派遣される。3人の科学者のリーダーはアレクシス・フォンデラハ、通称ボニー。物語は、彼女がたったひとりでエウロパに閉じ込められ、未知の攻撃に負傷し、次の攻撃に備えるところから始まる。すでに仲間のふたりは死に、そのうち一人を、宇宙服のスーツAIを利用して、仮想人格(ゴースト)としてよみがえらせ、機能制限をおこない制御しながら支援にあたらせていた。しかし、ゴーストは自らの人格の統合とスーツAIののっとりを望んでいる。負傷した肉体はマイクロマシンである程度までなら修復できる。もっとひどい怪我ならばクローン移植による再生も可能だ。しかし、死んでしまってはなすすべもない。
 エウロパには、彼らの科学チームの他にも、あとから高速船で追いかけてきたEU、ブラジル、中国のチームがそれぞれの思惑の中でエウロパに降り立っている。
 先行したボニーのチームがみつけたのは、サンフィッシュと名付けられた、おそらくは知能をもつ生命体と、それらがつくる構造、そして氷の壁に記された文字のような文様。
 知性生命体なのか、それとも単なる反応としての構造や装飾なのか、そして、コミュニケーションはとれるのか、重水素採掘利権や、地球における政治状況を反映しながら、エウロパの世界の小さな人間達の物語が進む。
 釣書で「未知の生物に襲撃される。さらには探査の方針をめぐり深刻な対立も発生」などと書かれているから、「エイリアンかよ!」っとつっこんでちょっと触手を伸ばすのが遅れてしまった。エウロパの自然環境、そこで発生しうる生態系と知性、地球・人類の進化の歴史と、他の惑星・衛星での進化の「時間軸のずれ」問題、AI、仮想人格、先端医療、クローン培養、国際政治、エネルギーなどいろんな要素を詰め込んだ良質なエンターテイメント作品であった。
 ちょっと「中性子星」(ロバート・L・フォワード)を思い出してみたり。
 続編もあるらしい。楽しみ。
(2019.9.7)