三体3 死神永生

三体3 死神永生
DEATH’S END

リウ・ツーシン
2010

 いまから15年ほど前、中国で中国語SFとして発表され、英語をはじめさまざまな言語に翻訳された衝撃の現代小説「三体」と「三体2 黒暗森林」はSF読みだけでなく、現代小説として世界的なヒット作となった。文化大革命の時代に物語はじまり、現代を超え、近未来につづく異星文明「三体世界」と、科学技術でははるかに遅れている人類の物語。三体世界は、太陽系・地球を新たな生存空間とするため、大規模な艦隊を発信させるとともに、高次元量子コンピュータを地球上に展開させ、人類の科学技術の発展を阻害し、世界に攪乱と混乱をもたらしていた。

 物語は、三体世界との遭遇と、脅威の認識(「三体」)、三体世界の近未来に約束された侵攻という状況にさらされた人類社会の変化と、対抗し人類を守るためのさまざまな動き(「黒暗森林」)、そして、本作「死神永生」では、かろうじて人類壊滅を避けられたものの三体世界との緊張関係が続くなかで、前作で明らかになった宇宙の知的種族の行動規範が人類のあり方を変えていく姿が描かれていく。

 第二部の前作でも風呂敷は大きかったが、第三部はSF的制限解除といった様相を呈していく。現代宇宙論の柱である高次元宇宙、ひも理論、多元宇宙論、グレッグ・イーガンばりの「物理法則」「数論」までも駆使して、荒唐無稽といえば思いっきり荒唐無稽だが、それを思わせない筆力と展開で最後まで押し切っていく。
 まあ、ちょっとはご都合主義的な部分を感じなくもなかったが、そのくらいご愛敬。一緒にだまされていこう。

 最後の解説で、この第三部は「あまり売れないだろうから、前2作とちがって一般受けは気にせずSFにする」みたいなことを作者が言っていたと紹介があった。まさにまさに。とはいえ、イーガンよりも分かりやすく、ヴァーナー・ヴィンジ(遠き神々の炎)、ジョン・E・スティス(レッドシフト・ランデブー)、スティーヴン・バクスター(ジーリーシリーズ)、デイヴィッド・ブリン(知性化シリーズ)、グレゴリイ・ベンフォード、フレデリック・ポール…。日本にも翻訳されてきた数々のSF作家が挑戦した宇宙を描ききる作品たち。これらのひとつの総集編のような作品である。

 もし、ハードSFは難しくて読みにくいと思って避けている人がいたら、ぜひこの「三体」シリーズを手に取って欲しい。
 2部まではぜんぜん難しくない。へええええ、なるほどおおお。ぐらいな感じでもうゲームとかスマホとかヴァーチャルリアリティとかデジタル時代に生きる21世紀人なら「現代小説」として読めちゃう。そして、第二部まで読んだら、そりゃあ続編が読みたくなるから。だって、さらにおもしろくなるんだもん。一緒に時間と宇宙を旅しようぜ。

(2021.12.30)