太陽系辺境空域

TALES OF KNOWN SPACE

ラリイ・ニーヴン
1975

 ニーヴンのノウンスペースものに位置づけられている短編集。ニーヴンのプロ第1作から収録されている。巻末には「リングワールド」までの年表もついており、いくつかの作品にはニーヴンによる解説?言い訳?ひとこと?もついている。
 この作品集はニーヴン自身がまとめたもので、1964年発表作品から1975年発表作までがノウンスペースの年代順に編集されている。
 年表によると、この短編集には1975年、2000年、2100年、2300年、2600年、2800年、3100年の物語が掲載されており、いくつかの短編は他の長編の外伝的エピソードにもなっている。
 作者自身も書いているが、古い作品には太陽系の科学的知識からみて間違っている、古いものもある。書いているそばから新たな発見があり否定されたりもしている。それだけではなく、社会的に21世紀の今日において許されない差別的表現もある。本書が出された時期には許されていたとしても、今日において一部の作品はそのままでの再版は難しいだろう。古い作品には、後の価値観の変化、進化によって作品自体が否定されるべきものもある。そのような作品は、「価値観が変化している」ことを理解できる読者でなければ間違った理解を与えるものになりかねない。注釈をいれるという方法もあるが、扱いには注意が必要だろう。
 古い作品を読むときの、古い作品を紹介するときのちょっとした難しさだ。

 それから、本短編集はノウンスペースの長編を一通り読んでから読んだ方がおもしろいかもかも。

いちばん寒い場所…水星の話。人間であるエリックの脳が収納されている宇宙船とハーウィーのお話。古い水星は自転していなかったりする。

地獄で立ち往生…金星の話。エリックとハーウィーが熱い金星で。

待ちぼうけ…冥王星の話。古い水星と並んで寒い冥王星には。

並行進化…火星の火星人の話。「プロテクター」に直接つながっていく。

英雄たちの死…こちらも火星の火星人話。本作品は差別的表現にあふれているので注意が必要。火星の基地にいるジョン・カーターが出てくるあたりはパロディなのだが。

ジグソー・マン…21世紀終わり、いまだ地球では長命のための臓器銀行が欠かせず、そのためには死刑となる罪人が必要不可欠だった。いま、ワレン・ルイス・ノウルズは監房で死刑判決を待つ身となっていた。

穴の底の記録…地球人(フラットランダー)のルーカス・ガーナーが小惑星帯人(ベルター)を訪ねた。2112年、地球(国連)が所有する火星にベルターがひとり不時着を余儀なくされ、古く放棄された基地(英雄たちの死で登場した基地)に向かい、そして火星人と出会うことになる。その記録をみるために。

詐欺計画罪…ルーカス・ガーナーは174歳になっていた。レストランでロボット給仕のサービスを受けようとしていた。そして連れの若い部下に対してロボット給仕をめぐるはるか昔のひとつの事件を話し始めたのだった。

無政府公園にて…アメリカの交通の象徴であるフリー・ウェイはもはや本来の目的では使われていない。すべてフリー・パークとなっていた。「暴力禁止」それ以外はなにをやっても自由。それがフリー・パーク。そして、それを担保しているのは警察本部と無線でつながる無数のドローン。カメラと音波銃を備えている。いま、フリー・パークで事件が起きた。無秩序の誕生である。

戦士たち…クジン族との出会い。冥王星から植民星ウイ・メイド・イット星までの中間で宇宙船エンゼルズ・ペンシル号は異星船と遭遇した。平和的な接触を信じて疑わない人類、はなから侵略以外考えていないクジン族。ジム・デイヴィズは学ぶのだった。

太陽系辺境空域…べーオウルフ・シェイファーが主人公の5番目の物語。高重力のジンクス星でルイス・ウーの父親カルロス・ウーと再開する。そして宇宙船失踪事件について異星局のジグムント・アウスファウラーの依頼を受けて太陽系へ向かう偽装船に乗り込むのであった。

退き潮…2830年ごろ、太陽から約40光年の世界に180歳のルイス・ウーがたまたま立ち寄った。15億年前に銀河系内の知性種族をほぼ一掃した戦争において一方の側であるスレイヴァー側は時間の経過を止めるステイシス・ボックスに貴重品を入れて未来に備えた。特別に大きなステイシス・ボックスを見つけたルイス・ウー。しかし同時に別の異星人も同じステイシス・ボックスを見つけたのであった。どちらも譲る気はない。そして…。

安全欠陥車…3100年。「強運」のティーラ・ブラウン遺伝子が拡がった人類世界は黄金時代にあった。開発途中の植民星マーグレイブで起きた自動車事故のちょっとした顛末。

 簡単に紹介すると以上のような感じである。「プロテクター」でも感じたが、重力井戸の底である地球人(フラットランダー)と、小惑星帯をベースに太陽系外にまで進出しようとするベルター(小惑星帯人)との対立構図は、後のアニメ「機動戦士ガンダム」にも通じるところがある。また、最近では小説・ドラマとなった「エクスパンス」でも地球人とベルターの考え方の違いなどが焦点になっていたりする。そういう点ではニーヴンの目の付け所はさすがである。
 また、最初の2作は1964年のデビュー作で「生きた脳の宇宙船」が登場しているが、アン・マキャフリイが「歌う船」を発表したのが1961年だから、こちらはマキャフリイをインスパイアしたものか、それともはやっていたのか。
 いずれにしても、SF大好きニーヴンらしい作品集である。