三体X 観想之宙

THE REDEMPTION OF TIME

リ・ジュン
2011

 人間の世界は不思議と偶然と必然と熱意に満ちている。リウ・ツーシンの「三体」の公式二次創作作品である。もちろん「公式」になったのは発表された後、出版が検討されてからのことである。著者リ・ジュンは1980年生まれ。「三体Ⅲ 死神永生」が中国で出版された2010年10月にベルギーの大学院留学中だったが、友人が全ページを画像にしてメールで送ってくれたという。SFファン同士、ネットで語り合いながら、読了2日後には二次創作を執筆することを決意したというのだ。そしてすぐにネットで発表した作品はオリジナル発表後1週間後にはすでに多くの読者を魅了し、3週間後のクリスマスイブの夜には本書の元となる物語を書き終えたという。
 本書は「三体」では語られなかったいくつかの「謎」や「顛末」について無数にある可能性のひとつを提示する作品である。リ・ジュンも書いている通り、「三体」の二次創作はたくさんあるが、これほど注目を集めた作品はない。内容もタイミングも最適だったのだろう。そして、オリジナル著者であるリウ・ツーシンの許可を得て出版されることになった。英訳され、日本でもオリジナル作品と同じ体制で翻訳されるに至る。
 それだけでもすごいことである。
 そして、本書をきっかけにSF作家としての道を歩むことになる。

 若い作者であり、英米のSFにも造詣が深いSFファンでもある。それゆえの遊びや大胆な表現もあって、「三体」とは違った印象を受けるところもあるが、総じて「なるほどね、そういうことだったのか」となかば強引ながらも納得いく展開を見せてくれる。
 だいたい書き始めが(日本語訳だけど)
「むかしむかし、もうひとつの銀河で…」なのである。
 もう、これだけで読むしかないじゃないか。

 作品はプロローグなども合わせると6部からなっている。
 プロローグ
 第一部 時の内側の過去
 第二部 茶の湯会談
 第三部 天萼
 終章(コーダ) プロヴァンス
 コーダ以後 新宇宙に関するノート

 である。登場人物のほとんどは「三体Ⅲ」の主人公たち。
 第一部は雲天明とアイAAの物語。
 第二部は雲天明と智子の物語。
 第三部以降は内緒。
 だけど、最後の「コーダ以後」のタイトル裏に書かれている引用文だけは紹介しておこう。
伝説が終わり、歴史が始まる。 –田中芳樹『銀河英雄伝説』

 ロマンあふれる宇宙史である。
 そうそう、もうひとつ、これもネタバレになるのでヒントだけ。
 私たちの宇宙の現実に存在している日本人がひとり登場します。思わぬ形で。
 二次創作なんだから遊び心溢れていいんです。

 そして、忘れてはいけないのは「二次創作」の答えはひとつではないということ。
 実際に公式出版されるのはこのようにごくごくわずかだし、それ以外だとプロによる「シェアワールド」としての二次創作になってしまうけれど、ひとつの世界が提示され、そこに二次創作という形での無数の枝分かれする世界が登場することは決して悪いことではない。オリジナルはすべてだけれど、二次創作は無限の可能性を持つ。
 それは、新たな創造のきっかけにもなるのである。
 すくなくともオリジナルを尊重し、貶めず、その世界観を共有しうる作品である限り、二次創作は(もちろん、それで利益を得るのならば著作権者の権利が守られることは言うまでもなく)想像の世界を広げるのである。
 たとえあなたや私の頭の中にしか存在しないものであっても。

リウ・ツーシンの「三体」感想はこちら